キャラクターの会話を想像しながら物語を作る
――モチーフとする本から物語を作ることは多いですか?
野村 「文学少女」では本から作ることも多かったんですけど、「おらんだ書房」に関してはそのパターンは第2話くらいで、他の話は「このお客さんは、どんな本を求めてくるんだろう」と想像するところからお話ができ上がっていきました。
――第2話は老婦人が本当にチャーミングですね。第3話のお客さんはお腹を空かせた子供です。クライマックスでは絵本が感動的に使われています。
野村 第3話は、いばらくんと重なるような子のお話にしようと思って書きました。もともと絵本を読むのが大好きで、この子が欲しがっているのは、どんな本なんだろう? と考えたとき、これしかない、と選んだものです。
――感動を誘うお話から一転、第4話はコメディタッチで三途の川べりの街も巻き込んだ賑やかな物語ですね。
野村 このお話も、お客さんがおらんだ書房に「呪いの本をちょうだい!」と飛び込んでくるところから想像して、店主との会話を進めながら作っていきました。
――呪いの本を探しているという冒頭は衝撃でしたが、爽やかなラストが印象的です。第5話は超人気作を完結させる前に死んでしまった漫画家のお話で、店主はどうにかして彼に最終話を描かせようとするのですが、彼には描けなくなった理由があって……。
野村 三途の川べりの街には、成仏をせずに留まっている人たちもいて、それならきっと、未完結の漫画や小説の続きを待ち続けている読者もいるに違いないと思ったんです。
――野村さんにも完結を待っている作品はありますか?
野村 ありますよ、たくさん(笑)。読書家のみなさんなら、絶対にそういった作品がありますよね。前の巻から3年くらい新刊が出ないと「もう書いてもらえないのかな……」って、しょんぼりしたり、それでも待ってしまったり。だから、新作を待ち焦がれる人たちの気持ちはすごくわかります。
最後は何度も読んだ思い出の本を読みたい
――そして最後の第6話は「世界一つまらない本」を求めて、女子高生がおらんだ書房を訪れます。店主は彼女の要望通りの本を見つけてあげますが、彼女は最後にほかのお話の死者たちとは違う選択をしますね。
野村 こちらも「つまらない本、ありますか?」という女の子のセリフから物語が生まれました。彼女が動くにまかせて頭の中でストーリーを追っているうちに、この子はこっちの道を選ぶだろうな……と思って、必然的にあのようなエンディングになったんです。
――収録されている6話の中で、あえて一番好きなお話を選ぶとしたらどれでしょうか?
野村 そうですね、やっぱり女の子がキャッキャしてるのが好きなので最後のお話ですね。でも、いまどきの子はシュシュはつけないと思います(笑)。書いているときも、どうしようかと迷ったんですけど、場面的にはシュシュが欲しかったので「入れちゃえ!」と思って書いてしまいました。
――もし野村さんが「最後の一冊」を選ぶとしたら、どの本にすると思いますか?
野村 執筆する前にさんざん考えて、考えて、考えたのですけれど……やっぱり決められないですね。無理です! ただ、私の場合はこれから読みたい本ではなくて、何度も読んだ思い出の本になるんじゃないかと思います。だって読んだことのない本を読んで、もし納得がいかなかったり、続きものだったりしたら、大ショックじゃないですか(笑)。
――続々と新作を発表されている野村さんですが、どのようにして面白い物語と魅力的なキャラクターを生み出しているのでしょうか。
野村 物心ついたときから、頭の中でキャラクターを作って会話させるのが当たり前になっていました。なので、物語の種は自然に生まれてくる感じです。あとはそれらのアイデアを小説の形にするために、一生懸命組み立てを考えます。この場面から世界観を広げていったらどうなるかとか、このキャラクターだったらどういう行動をするだろうかって。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
野村 文春文庫さんでは初めて本を出させていただきます。先日、見本をいただいて、ルビがほとんど振られていないのを見て「大人の本だぁ!」と感動してしまいました。ぜひ、皆様の人生最後の一冊は何になるのか考えながら読んでみてください。
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