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木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

 書店を舞台に、本にまつわる企画を手掛けるようになって8年がたちました。

 2020年は、そのどの年とも違う一年でした。

 「そこでしか買えない本」のために、そして、本とお客さんをつなぐ特別な場所のために走り出した初春から、イベント自粛、外出自粛、さらには、書店を含む様々な店舗への休業要請が発令される直前までに考えていたことを綴ったのが、これからご紹介するエッセイです。

 冒頭で紹介している又吉直樹さん全編書き下ろしアンソロジー『Perch』は、一度は発売延期になったものの、2020年9月末、ウィズコロナの形にあった方法で販売を開始することができました(※オンラインでも購入可能。詳細はエッセイの最後にまとめてあります)。

 このエッセイを書き始めた当初に思い描いていた未来とはちょっと違う現実に立っているけれど、いま目の前に広がる景色を、私はけっこう気に入っています。

 その原点にある想いについて、これまでの挑戦について、改めていま、お読みいただけたら幸いです。

 以下、『別冊文藝春秋』2020年5月号に寄せたエッセイのダイジェストです。


『Perch』完成の瞬間

 又吉直樹全編書き下ろしアンソロジー『Perch』が完成した。この春オープンする「羽田空港 蔦屋書店」で販売されるこの作品、買えるのは、このお店だけ。部数限定販売で、増刷はしない。売り切れたら、それでおしまい。

 入稿を終えたのは3月2日だった。安倍首相が発表した臨時休校要請にともない、全国の小中高校は一斉休校の初日を迎え、市場からはマスクに続いてトイレットペーパーや消毒液、米、インスタント食品などの日常品までもが姿を消した。吉本興業が期間未定で全公演の中止に踏み切ったのも、同じ日だった。

 世の中が不安と混乱の渦中にあり、エンターテイメントの規制が日毎に厳しくなり、東京オリンピック・パラリンピックの開催や経済活動さえ危ぶまれているなか、けれど私にとって『Perch』は、この先を照らすひとすじの光だった。

「止まり木」という意味を持つこの作品集は、どのような発想から立ち上がったものなのか。表現の場を広く持つ又吉直樹という人間が、なぜ、いま、ここまで限定色の強い「本」という創作形態を選んだのか。その制作過程とはどういうものだったのか。

 その本が世界に存在することで、人と人、人と場所がつながる。ときには、自分の中に眠っていた過去の記憶が想起され、未来に影響することもある。いったい本は、どれほどの可能性を含んでいるものなのか。そして、本に関わる仕事をするとは、どういうことなのか……。

 それらを私に気づかせてくれたのが、『Perch』でした。

 長くなりますが、本屋をめぐる私の実体験を振り返りつつ、綴っていきます。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

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