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歴史小説はこんなに面白い! 後編

歴史小説はこんなに面白い! 後編

聞き手:「オール讀物」編集部

天野純希×今村翔吾×川越宗一×木下昌輝×澤田瞳子×武川佑×谷津矢車

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

令和の歴史小説の範囲はどこへ――

 谷津 最後は僕ですね。決まっている題材がいくつかあります。近代ものだと、二・二六事件を今までとは違う切り取り方をしようと考えてます。一般的にあの事件は、皇道派と統制派の対立と言われていますが、これは後世作り上げられた構図ではないかと。それを取り去ると新しい姿が見えてくると思います。あとは、新田義貞、箱館戦争についても構想しています。

 澤田 令和になって、明治、大正時代がちょっと書きやすくなった感じがします。それこそ、第二次世界大戦も含めて、少し客観視できるようになってきた雰囲気があって。そういう意味で、歴史小説を書ける土壌が増えてきたのは嬉しいですね。

 今村 たしかに、なんとなくこれまで昭和は書きづらい雰囲気がありましたね。歴史小説は史実をきちんと踏まえたうえで、フィクションでもあるんだから、禁忌みたいなものをあんまり設けて欲しくないって気持ちがあります。僕が昭和を書くとしたら、第二次世界大戦で活躍した、ドイツ陸軍元帥のロンメルや、同じくドイツ軍人で、電撃作戦の生みの親であるグデーリアンを取り上げたいんだけど、書きようによっては、色んなところから非難されると思うんです。

 谷津 よく分かります。歴史小説が作ったイメージによって不幸になったケースも実際ありますし。そこに対して作家が責任を持てるかといえば……。

谷津矢車 やつやぐるま
1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。18年『おもちゃ絵芳藤』で歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。

 川越 難しい問題ですよね。僕は『熱源』(文藝春秋)でアイヌ民族の英雄的な人物を描きましたが、まだ孫くらいの世代の方はご存命なんですね。彼らから「こんな人じゃない」と言われてしまったら、やっぱり辛いところがあって。今村さんのおっしゃる通り、フィクションを書く以上、読者に対して面白いものを提示するのは当然として、史実を扱う以上、これ以上はフィクションとして踏み込んではいけない領域というのを書く側が意識しておかなければいけないと考えています。

 谷津 それらを踏まえて、歴史小説家という枠組みゆえに書けない物語ってありません? それこそ歴史小説家と呼ばれると、日本の歴史小説であることが暗黙の了解とされますし、なんなら江戸より前のほうがいいよねっていう風になりやすいというか。

 今村 世界史にもっと興味を持ってくれたらいいんやけどね。東インド会社とか、めちゃくちゃ面白いと思う。

 谷津 それこそ、武川さんは大学で研究されていたわけだから、ヨーロッパを書きたいんじゃないですか?

 武川 ドイツ傭兵やスイス傭兵が活躍する話を書きたいです。でも、これを出版社側に話すと、「読者がついてこれますかね……」って言葉を濁される感じがあって(笑)。

 澤田 そういう意味でも、偏愛本で挙げた皆川博子さんは憧れです。日本の歴史小説も書けば、幻想小説やドイツの歴史小説も書かれる。いつか皆川さんのような小説家になりたいですね。


※この大座談会に参加した7名の歴史作家が勧める、(1)初心者にお勧めの短篇、(2)ビジネスに役立つ歴史小説、(3)自身が偏愛してきた作品について、文庫を中心に販売する歴史時代小説フェアが、12月25日から八重洲ブックセンター本店で、1月中旬から丸善ラゾーナ川崎店紀伊國屋新宿本店で行われます。

電子書籍
本屋が選ぶ時代小説大賞2011〜2020
オール讀物編集部

発売日:2020年12月22日

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