読後感をひとことで表すなら、「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ記者魂」だ。相澤冬樹記者は吉田松陰を敬慕する。松陰は国禁を犯してペリー艦隊の黒船に乗り込もうとして失敗、幕府に自首、捕縛されたとき、「かくすれば……やむにやまれぬ大和魂」と詠んだのだ。官邸への忖度に終始するNHK上司の「あなたの将来はないと思え」という圧力にも構わず、大阪司法担当を外されても、一兵卒記者になっても、真相めがけて突き進む。「言論の自由」「反権力」などと居丈高に騒ぐ世界とは無縁だ。この一介の愚直な魂ほど、巨大組織NHK、そして首相官邸や、官庁の中の官庁たる財務省のお歴々の心胆を寒からしめるものはないだろう。
相澤記者と初めて会ったのは2020年2月、『安倍官邸vs.NHK』を書店で買おうか、と思っていた矢先だった。大阪で講演を済ませたあとの週末、産経新聞同僚の紹介で昼定食を共にした。眼光鋭くも、眼の辺りにはにかんだような優しさを漂わせる。いくら歳を経てもいっぱしのジャーナリストなら、青臭く書生っぽい同類の匂いを嗅ぎつけたがるものだ。ああ、こいつは本物のジャーナリストだな、やばい奴だ、と直感した。
彼はさっそく同書を差し出す。サインを頼むと、「取材は愛」とある。触発された。経済記者一筋50年の筆者の拙著サインは「経済は義」と決めた。森友事件について、正義が失われているんだなこの国は、との憤りを籠めてもいる。
官庁の中の官庁である財務省が途方もない国有地の値引き、公文書改ざんに及んでも、トカゲのしっぽきりで恥じ入ることがないことは、経済問題に置き換えて筆者なりに問題意識をとがらせてきた。
森友事件は四半世紀にも及ぶ日本経済の低迷と無縁ではない。財務省が主導する緊縮財政と消費税増税は社会保障を充実させ、財政を均衡化させ、日本の先行きをよくすると、政界、学者、財界、それにメディアの多数派から支持されてきたのだが、実際には四半世紀にも及ぶ慢性デフレとゼロ%台成長をもたらし、肝心の財政健全化に全くと断じていいほど役立っていない。なのに、財務官僚はもとより、政官学、メディアのいずれの主流も財務省路線に固執し続け、しかも失政を繰り返し実行、擁護している。財務省に都合のいいことばかり政治家やメディアの論説委員に吹き込み、そう言わせ、書かせる。エリート官僚に誤り無しという財務官僚特有の恥じ入ることがない無謬の論理に、日本国中がからめとられているかのようだ。
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