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トランスジェンダーの僕がパパになるまで――杉山文野インタビュー

トランスジェンダーの僕がパパになるまで――杉山文野インタビュー

聞き手:Voicy 文藝春秋channel


ジャンル : #ノンフィクション

『元女子高生、パパになる』(杉山 文野)

――渋谷区の「同性パートナーシップ条例」成立から5年が経ちましたね。

見える景色はだいぶ変わってきたなという感じがします。
「同性パートナーシップ条例」は、今では約60の自治体でスタートしていて、申請のあった組数がだいたい1300組のカップル。かなり広がってきましたし、同性婚、婚姻の平等に関する訴訟も起こってきて、「法律を変えよう」という気運も高まっています。

もともと渋谷区の条例は、現在の渋谷区長・長谷部健さんと僕が出会ったのがきっかけでスタートしました。最初にお会いしたのは、ちょうど『ダブルハッピネス』を出す前です。たまたま彼がやっていた「greenbird」というお掃除のボランティアグループに、僕が暇な学生として参加したのがきっかけです。当初、長谷部さんはLGBTQに全く興味関心もなく、応援するという感じでも全然なかったんですけど、彼とは「greenbird」の活動を通して仲良くなっていったんです。
『ダブルハッピネス』が出版されると、全国の当事者の方々から「杉山さんに会いたい」と言われることが増えてきました。とはいえ、ひとりひとりにお会いすることもできないですから、「もしよければgreenbirdの活動に来てください、そこに僕はいるので」と呼びかけたんです。そうしたら、本当に全国のLGBTQの当事者の人が来てくださって。その様子を見た長谷部さんが、「こんないっぱいいるんだ」と。「これまで気がつかなかったけど、性的マイノリティというだけで、こんなに困っている人がいるのなら、何かできないかな」と仰ってくださったんです。これが今から10年くらい前ですね。以来、何かできないか、と話し合いを重ねていきました。そしてあるとき長谷部さんの方から、「同性パートナーシップ証明書の発行というのはどうか」と提案してくださったんです。そこから小さい勉強会を始めてみたり、色々な人にお会いしてお話を伺ったり、できることから積み重ねていって、議会提案に繋がり、最終的に日本初となる同性パートナーシップ証明書の発行に至ったという経緯です。
僕は今、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」の検討委員もやってるので、この5年ぐらいはずっとその関係の活動をしていることになりますね。

――本書のなかでは、パートナーの方との関係性、そして親になることを決意するまでの過程が詳細に書かれています。

パートナーとは、もう10年ぐらい一緒にいますけれども、彼女のご両親にはずっと付き合いを反対されたんですね。それはやっぱり、僕がトランスジェンダーだったということが理由でした。でも、僕も僕のことを理解するのに時間がかかったし、僕の親にカミングアウトしたときも、「頭おかしいから病院行け」というところからスタートしたわけで、分かり合うまですごく時間がかかったので、そりゃあ彼女のご両親だって、そんなすぐには理解できないだろうと思っていました。時間をかければきっと大丈夫だろうと。結局、3年経っても5年経っても駄目で、和解したのは彼女と付き合い始めてから6年目のことでした。
その後、僕たちが子どもを持つという選択をして、実際子どもができたという報告に行ったとき、彼女のご両親が見せた嬉しそうな顔がとても印象に残っています。そのときにはっきり言われたのが、「娘が文野を選択した時点で、僕たちには孫を持つという選択肢はないと思ってた」と。子どもができなければ幸せになれない、と言うつもりはないですが、やっぱり孫ができるというのは大きなことの一つなのかなというふうに思いました。

単行本
元女子高生、パパになる
杉山文野

定価:1,540円(税込)発売日:2020年11月11日

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