10月23日に公開を迎える『朝が来る』(原作・辻村深月)。
その公開を前に監督、出演者を集めた完成報告会見が行われた(当然、ソーシャルディスタンスには配慮しつつ)。原作の魅力、河瀬組ならではの「役積み」の仰天エピソードなど会見で明かされた撮影秘話をレポートします。
司会 まず監督、発行部数29万部を超えるという辻村深月さんの小説が原作です。監督としては、『あん』についで小説を原作とした映画になります。原作のどのような点に惹かれたのでしょうか。
河瀬 感動しない小説は映画にはしません。とても感動しました。すべてにおいて。その行間からあふれ出す新しい命への賛歌。その光が到達できるような映画にしたいと思い、映像化の許可を頂きにあがりました。
司会 特別養子縁組という仕組みについてご存知なかったのか、知っていたけれども物語に惹かれたのでしょうか?
河瀬 特別養子縁組は知らなかったんです。実は私は養女なんです。
司会 そうなんですか?
河瀬 はい、養子縁組をしてもらった子供なんです。
特別養子縁組とは、戸籍の中で実子としてその子供を迎え入れることです。
そこは(普通養子縁組と)大きく違うなぁと思いましたね。
*「特別養子縁組」制度
養子となる子供の実親(産みの親)との法的な親子関係を解消し、養親と養子に実の親子のような関係を結ぶ制度。普通養子の場合は、実親との親族関係は終了せず、戸籍も「養子」と表記される。
河瀬 養子縁組を隠すみたいな形ではなくて、むしろそれをきちんとした形で制度として後押しするような仕組みだったので、素晴らしいなぁと思いました。救われる命があるんだと。
司会 確かに、あなたには産みの親が他にいるんですよという部分が、この物語の一つのフックになる重要な要素で、ご覧になる皆様も大きく心動かされると思います。
多くの観客の皆さんもこれまで以上に感動の渦に巻き込む作品になっていると思うのですが、手ごたえはいかがですか?
河瀬 これは河瀬映画の中で一番のエンターテイメントであるという声を本当にたくさんいただけているので、最後まで飽きることなく見てもらえる作品になっていると思っています。
司会 永作さんが演じた佐都子なんですが、自分たちは子供を授かることができないと分かって、血の繋がらない赤ちゃんを育てる道を選ぶわけです。自分は母親であるという強い信念と周囲の深い優しさに見ていて涙が止まりませんでした。難しい役だったと思うんですが、今回、大切にされていたのはどういうところですか。
永作 最初に佐都子さんの役を見たときに、非常にしっかりした方で、演じる時に人間性みたいなものをどこで出そうかなと思いました。辻村さんがはっきり書いて下さっている分、本当に品行方正さがしっかりと伝わってきたんですね。監督とも「どう表現しようかねぇ、難しいよねぇ」なんていいながら進めていったんです。彼女は今まで頑張り屋さんで全てうまくいってきた、だけども、結婚した後に来る初めての経験、初めての人生の岐路がやってきて、それと対峙し、どう決断していくのか、どう心が揺れているのかということを、丁寧に純粋に表現していく必要があると思いました。そのことに関して清和役の新さんとも、本当に普通に夫婦が家で相談しているかのように、例えば養子縁組に関しても「どうする? 何が気になる?」ということを話しながら進めていた現場でした。ちっちゃなことを逃さないように、とにかく丁寧に作っていたと思います。
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