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他作品の名探偵同士が邂逅、コンビを組んで大暴走!?

他作品の名探偵同士が邂逅、コンビを組んで大暴走!?

文:瀧井 朝世 (ライター)

『静おばあちゃんと要介護探偵』(中山 七里)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『静おばあちゃんと要介護探偵』(中山 七里)

 静と玄太郎は名古屋で出会い、いくつかの不可解な事件や出来事に遭遇していく。他作品で互いに探偵役を担ってきた者同士だからといって推理合戦で闘うのではなく、二人ともほぼ同時に同じ真相にいきあたるところはさすが。彼らが闘わせるのは推理ではなく、自分にとっての正義である。法曹界で潔癖に生きてきた静と、実業界で金と権力を勝ち得てきた玄太郎では、やはりものの考え方が違う。だが、二人の意見はそれぞれまっとうで、正論というのはひとつではないと分かる面白さがここにある。

 信念は違っても、彼らに共通しているのは市井の善良な人々を守りたい、という姿勢だ。中山の作品ではしばしば現代の実社会の問題点が提示されるが、本作は主役の二人の年齢が年齢なだけに、老人を狙った詐欺や認知症、介護といった高齢化社会を象徴する時事的話題が盛り込まれている。具体的に書くとネタバレになるので避けるが、また別の問題も浮かび上がってくることも読めば分かる。ただ、どの事件にも共通するのは、それが搾取の問題となっている点だ。どれも、強い立場の者に財産なり命なり、何か大切なものを奪われたのに見過ごされていく、弱い立場の者たちの話になっている。玄太郎がそうした力に対して、力(権力もあれば物理的な暴力もあり)で対抗していくのは、単に構図が逆転しただけで同じことの繰り返しかもしれないが、それでも痛快に感じるのは、彼が立ち向かうのが主に警察や反社会的勢力など、市井の人間に比べたら圧倒的な力を持つ組織だからだろう。また、彼の暴走っぷりにはっきり不快感を露わにする静の存在がいるのも、作品を通して暴走を全肯定しているわけではないと伝わり、絶妙なバランスだ。

 彼らが遭遇するのは殺人や傷害事件もあれば、事件性を感じさせない出来事から意外な犯罪が見えてくるケースもある。物理トリックあり、ある種のハウダニットやホワイダニットもあり、毎回違う角度の謎を用意して飽きさせない。手がかりを少しずつ開陳して読者に推理させるというよりも、二転三転のスピーディな展開で読ませていく手法だが、第一話で玄太郎たちが一瞬で解き明かしてしまう大理石のオブジェの中に遺体が入っていた謎などは、読者も少し考えればわかったのではないだろうか。いずれにせよ、中山がアクロバティックな発想で読者を心地よく翻弄してくれる作家であることは実感できるだろう。

 本作はすでに続篇『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』(文藝春秋)が刊行されている。こちらは二人が東京で再会するが、玄太郎は都内の病院に入院してしまい、また違った関係性のなかでの活躍が描かれていく。魅力的な謎と老老コンビの活躍で楽しませてくれるが、最終話の最後の一行に、その先を知っている読者としては切なくなる。

文春文庫
静おばあちゃんと要介護探偵
中山七里

定価:803円(税込)発売日:2021年02月09日

単行本
銀齢探偵社
静おばあちゃんと要介護探偵2
中山七里

定価:1,540円(税込)発売日:2020年10月12日

文春文庫
静おばあちゃんにおまかせ
中山七里

定価:803円(税込)発売日:2014年11月07日

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