- 2021.02.10
- 書評
他作品の名探偵同士が邂逅、コンビを組んで大暴走!?
文:瀧井 朝世 (ライター)
『静おばあちゃんと要介護探偵』(中山 七里)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
静も玄太郎も、思考力、行動力、ブレのなさは超人的だが、実は中山自身も相当である。正直、この人、人間ではないんじゃないか、という気さえしている。
一九六一年生の彼は少年時代から読書を好み、高校生の頃にミステリーの新人賞への応募をはじめ、三次予選を通過することもあったが受賞には至らなかったため「才能がない」と思って学生時代のうちに執筆を辞めてしまう。卒業後は「休みの日には本も読めるし映画も観られる」という理由でサラリーマンになる道を選択。だが、二〇〇六年に島田荘司氏のサイン会に行ったのを機に、本人いわく「魔が差して」その日のうちにノートパソコンを購入して小説を書き始め、書き上げた原稿を『このミステリーがすごい!』大賞に応募したところ最終選考まで残ったという(その作品はのちに『魔女は甦る』として刊行された。現・幻冬舎文庫)。二年後に『さよならドビュッシー』で同賞の大賞を受賞し、四十八歳でデビュー。昨年作家生活十周年を迎えたが、これまでの単行本の刊行点数はなんと、約六十点。本人は「それまでずっとインプットばかりでアウトプットしていなかったから、たまりにたまっていたんですよね」と言うが、一冊一冊の濃度を考えると、とても一人でこなした仕事とは思えない数だ。
では、どんな執筆生活を送っているのかというとこれがもう、紹介する際には必ず「よい子は絶対真似しないでください」と注釈をつけたくなる内容。一日に一冊本を読み、一本映画を鑑賞し、原稿を二十五枚書くというのが習慣だそうで、ずっとパソコンに向かって睡眠時間は毎日二~三時間、横になって寝ることは少ないと言う(「パソコンの前で寝落ちしないのか」と聞いたら「しょっちゅう」とのこと)。何度も席を立つと集中力が途切れるからと、トイレは一日一回しか行かない身体にしたという(どうやって?)。水分を我慢しているわけではなく、脳溢血の予防のため、必ず一日1.5リットルは水を摂取している。運動は、夜中に50メートルのダッシュを何本か。健康診断の値は良好だそうで、実際会えばいつも肌ツヤもよければ歩くスピードも速く、じつに健康的だ。
記憶力も半端なく、作品内で言及される法律や医学ほかさまざまな知識や、実際に起きた事件の概要などは以前読んだものを憶えているという。観た映画はコマ割りで説明できるというから、先述の通り、本当に人間かどうかもはや半信半疑である。こうした話はWEB本の雑誌のサイトで連載している「作家の読書道」でインタビューした時にご本人から聞いたことだ。幼い頃からの読書遍歴だけでなく、作家としての姿勢など丁寧に語ってくれているので、ご興味あればぜひサイトをご覧あれ。きっと、玄太郎や静のような、あるいはそれ以上の信念の強さ、ブレのなさを感じるはずだ。
楽しかったその取材の席で、こうも言っていた。「予想を裏切って期待を裏切らない、これだけは金科玉条のように守っています」。この筋金入りのエンターテインナーの引き続きの“暴走”を予想して、期待してやまない。
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