少しだけ勇気を出して、手を差し伸べる。
私は『巡礼の家』という小説で、「どーしたの」と声を掛けられた側の心情を、『どーしたどーした』という絵本(絵:荒井良二さん)で、声を掛ける側のちょっとした勇気を表現した。『どーしたどーした』の英語翻訳版『What What What?』は、国連SDG Book Clubという、6歳から12歳の子どもたちに「持続可能な開発目標(SDGs)」を学んでもらい、行動を促すというプロジェクトで、ゴール3(※)部門の一作に選ばれた。
「持続可能な開発目標(SDGs)」は、いままでのような経済優先の社会では、世界が持続できず、滅びに向かうという危機感を、世界各国が表明し、将来の世代にこの星を確実に譲り渡すため、具体的な問題解決のための目標を挙げたものだ。17の目標があるが、拙著が選ばれたゴール3は、「すべての人に健康と福祉を」である。 国連のチームが、すべての人の健康と幸福のためには、人々が少しだけ勇気を出して、「どーしたの」「お困りですか」と、声を掛け、手を差し伸べることが大切だと、認めてくれたということだろう。
生きていくのが楽しい、と笑い合える世界は、互いに助け合い、悲しみ合える世界だ。50年前、それがわかっていれば……と切なく感じる。突然消えた彼はいま幸せだろうか。家庭を築いただろうか。彼と私の過去を、心の隅に永遠に残しながら、子どもや孫や曾孫へ、この世界を受け渡すために、物語をつむぐという私なりの仕事で、力を尽くしたい。
※(編集部注) 「Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)」
(月刊JA2021年3月号掲載)
てんどう・あらた 1960 年、愛媛県松山市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業。86 年『白の家族』で野性時代新人文学賞を受賞しデビュー。96 年『家族狩り』で山本周五郎賞、2000 年『永遠の仔』で日本推理作家協会賞、09 年『悼む人』で直木賞、13 年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞した。主な著書に『ムーンナイト・ダイバー』『迷子のままで』など。
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