
これだけ医療が進歩しても、病気を克服できるどころか、耐性菌の出現を招いているし、世界はあっという間に未知の病のパンデミックに襲われてしまった。そもそも不老不死などは叶うはずがない。
人口が増え、社会の仕組みが複雑になるにしたがって、かつては想像もできなかった新しい不安の種が増えたようである。それに呼応するかのように、新しい種類の依存症も増えている。
つまり、現代人の不安を鎮めるための対処の一つとして、さまざまなものに依存する人が増えているということだ。依存症とは、不安から逃れられない人間が、その不安を紛らわせるための病なのである。
先に、依存症は「快」と関連することを述べた。ここで「不安」という正反対にも思えるキーワードを持ち出したことは、一見矛盾するように思えるかもしれないが、そうではない。「不安」の回避は、「快」につながるからだ。それは積極的な快感を求めるのとは違うが、ネガティブなものを回避することによる「快」である。前者がいわば「足し算の快」であれば、後者は「引き算の快」である。
つまり、「不安」というキーワードも、実はもう一つのキーワードである「快」と重なっている。したがって、やはり依存症は「快」と複雑に関連する事象だと言えるだろう。
依存症の嘘と真実
残念なことに、現代は依存症に関する間違った知識や誤解にあふれている。これでは、正しく賢く依存症に対処することはできない。
代表的な「依存症の嘘」には以下のようなものがある。
1 依存症は病気である
2 ほとんどの人は適正な飲酒をしている
3 低ニコチンや低タールの軽いタバコや新型タバコは害が少ない
4 違法薬物を使うと誰でも依存症になる
5 カジノができると、ギャンブル依存症の増加が懸念される
6 若者がゲームにはまっていても、そのうちに飽きるから放っておいてよい
7 肥満は自己責任である
8 厳罰化は、性犯罪の抑制に効果がある
9 薬物使用で刑務所に入るのは当たり前のことである
10 依存症の克服はつらくて厳しい闘いである
本書では、こうした誤りを正し、その真実について具体的な事例や科学的エビデンスを基に説明する。それによって、「依存症の真実」を多くの方々に理解していただくことを目的としている。
これまで説明してきたように、依存症とはきわめて「人間的な病」であり、人間が進化の過程で有利に生き残るために必要不可欠だった能力や性質と密接に結び付いた病である。
だとすると、われわれは誰にでも依存症になる可能性はあるし、もうすでになっているかもしれない。「依存症の真実」を知り、それに対抗する術を知ることは、何より自分自身のためになるはずだ。
(「序章 依存症――この人間的な病」より)
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