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東条陸相が称賛した陸軍経理部

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

経理から見た日本陸軍

本間正人

経理から見た日本陸軍

本間正人

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『経理から見た日本陸軍』(本間 正人)

 組織は人・物・金を必要とする。会社ならば人を採用し、商品を開発し、それを売り上げることにより利益を得て、そこから出資者に配当を行う。営利組織ではないものの、役所も機能は似たようなものといえる。人を採用し、政策に応じた予算を獲得し、その政策に基づき道路やダム、堤防といった社会資本を整備することで、国民に対して必要な各種サービスを提供している。

 このように捉えるならば、軍隊というものも基本的に他の役所と何ら変わるものではない。戦前の陸軍(陸軍省)は国に数ある役所の中の一つであり、同じように人・物・金を動かしていたといえるだろう。陸軍省の機能のうち、人(軍人、軍属)は人事局、物(軍需品)は経理局と兵器局、金(予算要求と決算)を経理局主計課と軍務局軍事課がそれぞれ主管し、その当時の仮想敵国に対して必要な軍備を整え、有事に備えていたのである。

 陸軍省で、物と金を握っていたのが経理局だ。今回、陸軍を経理面から見る場合に重要な位置を占める組織である。ここでいう陸軍経理とは、陸軍軍政の一部として、軍需諸物件の調達、管理、補給および人馬の給養(食事)ならびに財務を指す。ちなみに軍政とは、国家が軍を編制し、これを維持・管理する作用をいう。

 昭和一九年四月に東条英機陸相は、全軍司令官会議の席で次のように発言して、陸軍経理部の功績を称えたという。
 

 戦力発揮の要今日より急なるはない。各部門は猶一層の奮励向上を要望する。但し経理部だけは開戦以来よく協力一致広範囲に於て戦力増強に目覚しい成果を挙げている。本大臣は経理部の努力に感謝する。※1
 

 ここで陸軍経理部という名称が出てきたが、組織を規定する陸軍経理部令はあるものの、陸軍経理部に関する明確な定義が存在していない。そのため、本書では陸軍省経理局を頂点とし、陸軍経理部令に規定する「軍経理部」、「師団経理部」および「飛行集団経理部」、その他図表1に示す諸機関による会計経理に関する機能および作用を、陸軍経理部と定義したい。要は、陸軍の会計経理の面倒をみた関係機関全体を陸軍経理部と呼称する。


※1 柴田隆一・中村賢治『陸軍経理部』芙蓉書房

文春新書
経理から見た日本陸軍
本間正人

定価:1,320円(税込)発売日:2021年05月20日

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