また、組織とは別に身分としての経理部もあった。各部将校(経理部将校)である。兵科将校との違いは一体何であろうか。当時の陸軍では、実際に戦闘を行う歩兵や砲兵、騎兵といった戦闘職種に属する将校を兵科将校と称していた。一方、非戦闘職種である経理、軍楽、法務等の将校を各部将校と称しており、ある時期まで将校相当官とされ、正式な将校と見做されていなかった。そのため、非戦闘職種である経理部将校は、何かと差別的な待遇を受けていた。例えば、ある時期まで、閲兵式には参加するものの、その後の分列行進では外されていた。また、経理学校の中では、兵科の中隊長や生徒隊長が来ると部隊敬礼を行っていたが、学校長には気を付けだけであった。呼称も「主計さん」と呼ばれることが多く、兵科の将校・下士官から一段下と見られており、経理部将校は何かと苦労が絶えなかった。※2
陸軍経理は、軍事上の要求に即応し軍需を充足させるのが主眼であるものの、会計法令に基づき適正かつ経済的に処理することも同時に求められる。そのため、戦術一辺倒の兵科将校では到底担うことができないことから、わざわざ陸軍経理学校を設けて経理部将校を養成していた。兵科の士官候補生と同様に、経理部でも後述する主計候補生や経理部士官候補生が将校相当官あるいは将校として任官し、陸軍経理の中核となり戦時中に活躍しているのである。そして、軍令上の要求と会計法令の調和を図りつつ、経済的に軍政を行うという困難な業務を成し遂げえたからこそ、東条英機陸相から称賛されたのだろう。
本書は、陸軍という大組織を、経理という裏方から支えた益荒男たち、陸軍経理部将校の活躍という観点から記述したものである。現在までに、陸軍経理部について書かれている本は僅かであり、文献自体が少ないのが実状である。そのような状況から、各種資料を探し出し、興味深いエピソードを記述するように努めた。なるべく体系的に記述したいと考えていたものの、筆者の力不足により、トピックを連ねたオムニバス形式になってしまった点をご容赦願いたい。読者の皆さんには、今まであまり知られることのなかった陸軍経理部および経理部将校の活躍の一端を知って頂ければ望外の喜びだ。
なお、本書の記述に関する誤りは、筆者の調査不足である。誤りをご指摘いただければ幸いである。
※2 若松会編『陸軍経理部よもやま話』若松会
(「はじめに 東条陸相が称賛した陸軍経理部」より)
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