本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる

元首相、いまは芸術に生きる細川 護熙が「人生の節目で出会った」珠玉の名言

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

明日あるまじく候

細川護熙

明日あるまじく候

細川護熙

くわしく
見る
『明日あるまじく候』(細川 護熙)

 昔の人は本がない時代だから、本を丸ごと写すことも苦にしなかったようで、わたしの先祖の細川幽斎は、あの大部の源氏物語をすべて書き写している。わたしの父の時代の人たちでも筆写をさかんにやっていて、そんな父のノートが数冊残っているが、骨の折れるその作業は熟読以上に文字で心を洗うことになったのだろう。

 アンドレ・モロワは「本を読みながら、ノートを傍らに置いて、覚えておきたいと思う意味深い箴言を書きとめておくのは好ましいことだ。いつか気分がふさぎ込んだときなど、これを眺めれば、書きとめられた賢者たちの思索は、生きてゆくのを助けてくれるだろう」といっている。

 安岡正篤氏も、まず何より語録を読むべしとして、「もともと、生きた悟りや心にひらめく真実の智慧、あるいは力強い実践力とか、行動力というものは、決してだらだらした長ったらしい概念や理論から得られるものではない。これは体験と精神とが凝結している片言隻句によって悟るのであり、またこれを把握することによって行動するのだ」といっている。

 何度も何度もその章句を読んで心の襞に焼きつけておくことによって、なにか問題にぶつかったときに、ハッと悟って、その語録が行動指針となるのだということをわたしも幾度となく経験してきた。

 そんなわけだから、わたしも若いときから本を読んで気に入った章句があると、できるだけメモをとるようにしていたし、また付箋を貼ったり、傍線を引いたりもよくしてきた。結局自分はそれらの言葉によっていまの自分を確立してきたのだと思うし、これなしには自分というものはなかったと思う。

 そうやってできあがったノートには、相当な数の言葉があるのだが、今回はその中からいまの気持ちにぴったりくるようなものを五十ばかり抜き出してアンソロジーを編ませていただいた。言葉をそのまま引用した場合もあれば、わたしが意訳したものもある。また、章句を生み出した人の生き方に感銘を受けわたしなりにその生涯を一言で表わしたものもある。

 それらの箴言のうち一つでも読者の元気づけになるなら、わたしとしてもこれに勝る喜びはない。


(「はじめに」より)

文春新書
明日あるまじく候
勇気を与えてくれる言葉
細川護熙

定価:880円(税込)発売日:2021年08月19日

プレゼント
  • 『ナースの卯月に視えるもの2』秋谷りんこ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/11/06~2024/11/13
    賞品 『ナースの卯月に視えるもの2』秋谷りんこ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る