さて、そこから中野さんは考えていかれるのですが、視野に入れている人の多彩さに、まず驚きました。
西本喜美子さん。私もこの方の自撮り写真に仰天した一人ですが、その人を、「おかしい」「かわいい」と評しておられます。
ボランティアの尾畠さんも「好き」。「意外と思われるかもしれないが」と前置きしておられますが、はい、正直言って、意外でした。
どこが「好き」なのか。
『歌舞伎のぐるりノート』で、中野さんの「好き!」の強さに打たれた私は、ここから、中野さんの「好き」の内実に着目してみました。つまり、評価するポイント。
森茉莉=「ぐうたら」に居直って平然としている。ぐうたらで素っ頓狂の変わり者。精いっぱい好きに生きた。精いっぱい自由に気ままに。
沢村貞子=老いの一日一日を大切に、心をこめて、深く味わって暮らそうという意志。
サカモトさん=率直。そして柔軟。
シンボー・ママ=思いつくまま気の向くまま、テキトーに、ザッと。けれど大いに楽しみながら。心のおもむくまま。
西本喜美子=この世の中の生きとし生けるものに感嘆の目を見張っている人。心のうちにある「愛」ってやつをカタチにしてみる人。
天本英世=誰が何と言おうと、何と見ようと、好きに生きたほうが勝ち。
ビル・カニンガム=関心のおもむくまま。関心のういういしさ。好きなことだけ執拗に。興味のないことはすべてパス。
セツ先生=いつも上きげん。
なるほど。
沢村貞子は措いておいて、中野さんが評価しているのは、好奇心旺盛で、柔軟で、自由気ままに「好き」なことをしている人たちばかりです。「自分本位」の生き方をしている人に、憧れておられます。
しかし、「自分本位」というのは、実は難しい。自分が何を「好き」か、わかっていなければならない。そして、他人の目や、迷惑を気にしない強さを持っていなければならない。
ここにおいて、中野さんは最強です。俗っ気たっぷりで、強く純粋な「好き!」を、たくさん持っておられる。ああ、これが年をとっていく中で、けっこう肝なんだなあ。
この本を読んでもう一つ驚いたことがありました。
中野さんの「気の多さ」です。
「老後の愉しみ」の章。なんていろんなことしてるんだ!!!
お習字にチャレンジし、地球儀を買い、歴史の教科書を読みなおし、俳句をつくり、手芸をして……「好き」の多さは、これまた大いなる武器です。
「外の世界への関心というか好奇心が抑えられない」バアサンたちに親近感を覚える、と書かれていて、なおかつ苦手なことから徹底的に逃げる。いやはや、お財布のお金の出し入れまで妹さんに任せているという件には、さすがに驚きました!
もう、完全に森茉莉路線ではないですか!
中野さん。もう、路線は決まっています。すでに中野さんは森茉莉路線を驀進しておられます。そして、中野さんを敬愛する私としても、それを指針として……いやあ、でも「好き!」を貫くのって……森茉莉路線を選ぶのって、勇気いるよなあ。まわりに迷惑かけて平気でいられるかどうか。それが許されるトシヨリになれるかどうか。
この本でもう一つ大好きだったところ。
カバーです。南伸坊さんのお母さん(シンボー・ママ)、南タカコさんの作品。ショッキングピンクのタコ。毛糸で編まれて、目と口は、小さなボタン(笑)。足がゆら~り、いろんな方向向いてて、そのゆるさ、いい加減さ、可笑しさ、愛らしさ。
こういう感じが、身の回りに漂ったらいいなあ。
年とったら、愛嬌も大事ですよね。まわりに迷惑かけても、許してもらえるような。こんなスコブル可愛いモノをカバーに選んじゃうところで……「年のとりかたって難しいよなあ」と眉根を寄せていた額が、やわらかくゆるむ気がします。
中野さん、さすがのセンスです。
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