私たちを取り巻く社会には、多くの「中毒」が存在します。それらは、薬物、アルコール、ニコチンなどのモノをやめられなくなる「物質依存」と、ギャンブル、買い物、ゲームなどの行動をやめられなくなる「プロセス依存」の、大きく二つに分けられます。とはいえ、根っこは同じで、すべての中毒は脳がやられていることに起因します。

　あまり糾弾されることはありませんが、仕事に依存する「ワーカホリック」も立派な中毒です。

　SNSの中毒は、今後大きな問題に発展していくと思われるものの、まだまだ真の解明は進んでいません。

　では、あなたが最も忌み嫌う中毒はなんでしょう。

　たいていの人にとって、それは「薬物中毒」ではないでしょうか。そもそも覚醒剤などの使用は犯罪ですし、合法ドラッグとやらもひどく怪しい。錯乱状態に陥って関係のない人たちを殺傷する事件などを見れば、たしかに薬物中毒は最悪です。

　一方で、同じ物質依存でもアルコールやニコチンならまだ許せる。ましてや、糖質中毒なんてかわいいものだと思っていないでしょうか。

　だとしたら、その認識は一新してもらう必要があります。

　糖質中毒は、薬物中毒のように周囲の人に迷惑をかけることはないかも知れません。しかし、本人がまったく気づかないうちに重度の患者となっている点、そうした患者が現代社会に溢れかえっている点、それによってたくさんの人たちが重篤な病気を得ている点で、非常に深刻なのです。

　本書では、なぜ糖質中毒は起きるのか、どれほどたくさんの人たちがすでに中毒になっているのか、その理由はどこにあるのかといったことについて徹底的に掘り下げると同時に、恐ろしい害について医学的見地から述べていきます。

　もちろん、糖質中毒の治し方についても具体的にわかりやすく説明します。

　私は四〇年間にわたり、糖尿病専門医として医療の現場に立ち続け、のべ二〇万人以上の患者さんを診てきました。糖尿病と「糖質摂取」は切っても切れない関係にあり、私は好むと好まざるとにかかわらず、誰よりも糖質に詳しい医師となりました。

　そんな私が、最初に明言しておきます。

　糖質は、あなたが考えているよりも遥かに恐るべき物質です。糖尿病に縁のない健康な人でも、簡単に糖質中毒になります。そして、それによって太ることはもちろん、知らぬ間に健康を著しく害します。

　現代人にとって、避けて通りたい病気のトップはがんでしょう。ほかにも、心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病、アルツハイマー病など、重大な病気の根本に糖質中毒があると私は考えています。

　糖質中毒について知り、自分事として取り組むことは、現代人の健康管理において最重要課題と言ってもいいでしょう。

（「はじめに　気づかずに重症化しているあなたの「糖質中毒」」より）