- 2022.02.18
- 特集
『愛の不時着』、『トッケビ』、『海街チャチャチャ』…「世界で勝てるコンテンツ」を生み出す韓国“元サムスングループ”のスゴさ
文:菅野 朋子
『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(菅野 朋子)より #1
ジャンル :
#ノンフィクション
CJグループが韓国エンタメ産業界で頭角を現すことに
映画好きでもあり、アメリカのエンタメ産業を目の当たりにして韓国の文化を世界に広めたいと思ったという(『女性東亜』2014年3月号)。
彼女のプロデュースを受けたポン・ジュノ監督は、イ・ミギョン氏について、「夥しい映画を見てその尋常ではない情熱をビジネスにもたらした真の映画人」(中央日報、2020年2月10日)と評している。
Congratulations to Miky Lee of CJ Entertainment for producing #Parasite So very proud of South Korean artists and Korean American Producer collaboration. #HistoryMakers #oscars pic.twitter.com/ZUUjHavtuR
— Min Jin Lee (@minjinlee11) February 10, 2020
ベストセラー小説『パチンコ』著者のミン・ジン・リー氏とのショット。ここで書かれているMiky Leeはイ・ミギョン氏の欧米名。 ミン・ジン・リー氏のツイートより
イ・ミギョン氏と、CJグループが韓国エンタメ産業界で頭角を現すことになった出来事は、1995年、スティーブン・スピルバーグ監督が運営する「ドリームワークス」社にCJグループが投資を決めたことだった。この1件で、CJグループは同社の配給権をアジア(日本を除く)で獲得することになる。
「ドリームワークス」は当初サムスンと交渉をしていた。その交渉役を担っていたのが当時サムスンの米国法人「サムスンアメリカ」に勤務していたイ・ミギョン氏(当時は第一製糖理事を兼任)だったという。ところが、両社の交渉が物別れに終わるや、すかさずイ・ジェヒョン氏(当時は第一製糖専務)に投資するよう進言したといわれる。
グループ内の会社や関連会社と統合
イ・ミギョン氏が支援しているエンタメ事業は映画制作だけではない。アジア最大の音楽授賞式として知られる「MAMA」(Mnet Asian Music Awards)など音楽分野でも多くの支援をしている。韓国のオーディション番組の先駆けといわれる「スーパースターK」の仕掛け人でもある。
CJグループは1998年には韓国初のマルチプレックスシアター「CGV」をオープンさせた。前年97年の経済危機で多くの企業は映画事業から撤退したが、イ・ジェヒョン同グループ会長が押し切ったと伝えられている。
その後CJグループは多くのエンタメ関連企業を擁するようになったが、2011年、グループ内に独立して存在していた、CJメディア、オンメディア、CJエンタテインメント、Mnet、CJインターネットなど各社を統合して、「CJ E&M」を設立、18年にさらに関連会社を合併し、「CJENM」と改称した。
こうして韓国に、映画、ドラマ、音楽、公演、ゲームなどのコンテンツを擁するエンタメ界のモンスター企業が誕生することになる。
Netflixを通して日本を含めて世界的に大ヒットしたドラマ『愛の不時着』を制作した「スタジオドラゴン」も、このCJグループ傘下だ。
「世界で勝てるコンテンツ」を目標に
『愛の不時着』は、韓国の財閥令嬢で起業家の女性が自社のパラグライダー試乗中に竜巻に巻き込まれ、軍事境界線を越えて北朝鮮に不時着したところを助けてくれた北朝鮮の将校と恋に落ちる(「不時着」する)ストーリーだ。南北国境38度線によって分断された『ロミオとジュリエット』のような切ないラブストーリーを軸に、今もベールに包まれている北朝鮮の人々の日々の営みなどが描かれて関心を呼び、韓国でもヒットした。脚本家は北朝鮮の日常を描くために韓国にいる脱北者を重ねて取材していたことが伝えられている。
スタジオドラゴンは、1年に30本近いドラマを制作し(2020年には28本)、この『愛の不時着』だけでなく、『トッケビ 君がくれた愛しい日々』『太陽の末裔 Love Under The Sun』『海街チャチャチャ』など数々のヒット作品を生み出し続けている。2016年にCJ ENM(当時はE&M)のドラマ事業部が独立して設立され、他のドラマ制作会社を次々に買収し韓国最大規模のドラマ制作会社にまで成長した。社内にはヘッドハンティングしてきた演出家、脚本家、プロデューサーなど、いずれも韓国を代表するクリエイター230人あまりが所属しているといわれる。
同社は企画から制作、流通、販売まですべてのプロセスを手がけている。彼らの手法は、それまでテレビ局が企画とキャスティングを担い、制作会社は現場の下請けに過ぎなかったのとは一線を画している。
設立当初から「世界で勝てるコンテンツ」を目標としている同社は、IT時代のドラマ視聴を当初から念頭に置いていた。
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