「このご結婚は終わりじゃない」なぜ秋篠宮家関係者は、小室夫妻のご結婚で嘆息したのか
「このご結婚は終わりじゃない。始まりですよ」
ある秋篠宮家関係者は、自らに言い聞かせるように淡々とそう語った。秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんのご結婚のことである。どこか予言めいた口ぶりだった。
現在の皇位継承資格者は、秋篠宮、常陸宮、悠仁さまのわずか三人。次世代に限って言えば、悠仁さまお一人だ。
岸田文雄政権のもと、二〇二一年末には「安定的な皇位継承についての有識者会議」の最終報告書が取りまとめられたが、依然として皇位継承の安定に繋がる明快な道筋が見いだせていない以上、小室圭さんと眞子さんのご結婚の行方は、皇室の将来と簡単に切り離せるものではない。冒頭の秋篠宮家関係者の発言はそういう意味なのだろう。
本書は、二〇一六年~二〇二二年に『文藝春秋』に掲載された秋篠宮家に関する記事を編んだものである。さらに、右の有識者会議でヒアリングされた東京大学史料編纂所所長の本郷恵子氏に、会議の報告書を受けて新たにご寄稿いただいた。
本書に収録する記事の多くを占めるのが、二〇一七年の眞子さまの婚約内定報道からご結婚に至るまでの一連のできごとに関するものである。小室家の“金銭トラブル”をめぐり、大混乱に陥った騒動のさなか、秋篠宮は皇嗣となり、悠仁さまは中学、そして高校の進路を考えていた。秋篠宮家にとって経験したことのない激動の日々だったろう。
反響が大きかった記事の一つに「秋篠宮家『秘録』」(二〇二一年十二月号)がある。眞子さまと佳子さまが結婚によって皇室を「脱出」することを夢見ていたとする証言が紹介されている。お二人が感じられていた閉塞感の正体は何だったのだろうか。
姉弟の「序列」が逆転
あまり指摘されていないことだが、秋篠宮家は悠仁さまの誕生によって、戦後初めて姉弟間の「序列」の逆転を経験した宮家である。
悠仁さまは、二〇〇六年九月六日に誕生した。皇室においては、秋篠宮さま以来、四十一年ぶりの男子だった。
前年の二〇〇五年十一月には小泉純一郎総理大臣が旗振り役を務め、皇室典範に関する有識者会議により、女性天皇や女系天皇を含む皇位継承資格拡大案が取りまとめられていた。悠仁さまがお生まれになるわずか三カ月前には、男女雇用機会均等法の改正法案が成立している。それまで「女性差別禁止」を謳っていた同法律が、「男女双方に対する差別を禁止」と大きく性格を変えたのである。
その社会的な気運の中で、眞子さまと佳子さまは姉として、現在の天皇、秋篠宮に次ぐ皇位継承順位第三位の立場の弟を迎えることになった。
ちなみに、上皇には四人の姉がいる。しかし上皇の生まれた昭和(八年)と悠仁さまが生まれた平成(十八年)では、女性を取り巻く社会的状況は大きく変わり、その意味は大きく異なるだろう。当時の東宮家や他の宮家(常陸宮家、三笠宮家、桂宮家、高円宮家)を見渡しても、次世代の男子はいない。秋篠宮さまは父親として、東宮家も経験していない難しい舵取りを迫られたのである。
次世代の男子がお一人である以上、「皇位継承者であるか否か」の根幹である性別の違いは、様々なところであらわれる。日常における宮内庁職員や国民の視線、「帝王教育」の有無。ご結婚に際しても、男子のお妃選びには宮内庁が大きくかかわるが、結婚して皇室から離れる女子のお相手にはそれがない。多感な年ごろの十四歳の眞子さまと、十一歳の佳子さまはこうした周囲の視線の「変化」を、どのように受け止められただろうか。
かつて、『週刊文春』でお茶の水女子大学附属幼稚園に通われている悠仁さまの独自写真を掲載した折、紀子さまが血相を変えられて「この子は皇位継承者です。もし、カメラではなく銃で狙われていたら……」と一層厳重な警備を依頼されたと聞く。直系の天皇家ではない傍系の宮家が皇位継承者を育てることも、近代始まって以来のことであり、重責である。
秋篠宮は、二〇〇六年、悠仁さまがお生まれになった直後の誕生日会見で「基本的には長女、次女と同じように接するつもりでおります」と語り、皇族の役割について、「社会の要請を受けてそれが良いものであればその務めを果たしていく。(中略)私は女性皇族、男性皇族という違いは全くないと思っております」と語られた。幼い子どもたちの健やかな関係性に、皇室制度の構造による影を落とすことを恐れたのだろうか(皇嗣となられてから、侍従、女官から、男女とも「皇嗣職宮務官」とする改革を断行されたのも、こうしたお考えの延長線上かもしれない)。こうして、秋篠宮ご夫妻は、社会の価値観の変化を敏感に反映しながら自由な子育てを目指され、実行された。
順風満帆に見えた秋篠宮家で、なぜ「眞子さまの乱」は起こったのだろうか。そしてこの度の眞子さまのご結婚はのちのち皇室にどのような影響を及ぼすのか。識者たちの様々な角度からの論考をお読みいただきたい。
(「はじめに」より)
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