特集

ミックス・テープ 新連載 第1回 タレントDJ<特別全文公開>

文: DJ松永

文學界7月号

ミックス・テープ 新連載 第1回 タレントDJ<特別全文公開>

「文學界 7月号」(文藝春秋 編)

 タレントDJ。世間でどれくらい通用する言葉かは分からないけど、芸人やアイドル、モデルといった芸能活動を営む傍ら、副業的にDJ活動を始めた芸能人のことを勝手にそう呼んでいる。数年前まで、俺はそのタレントDJのことが好きになれなかった。

 彼らが出演するようなパーティーは、VIP ROOMがあったり高いお酒が振舞われたりするような、華やかでラグジュアリーなクラブで行われることが多い。そんな場所にゲストDJとしてブッキングされていることがほとんどだ。

 しかし、実際にそのタレントDJ達が、それほどの舞台にゲストDJとして出演出来る程の腕前なのかというと、そんなことはほぼない。DJ以外で得た知名度や肩書きを抜きにしてしまったら、同じ舞台に同じ条件で立つのは不可能だと思う。ゲストDJとしてメインタイムにプレイしてるのにもかかわらず、その日に出演する横並びのDJと比べて誰よりも技術が劣ってたり、最近やっと機材の使い方を覚えたのかなってくらい手元がおぼつかないような人もいる。中には、完成された1時間弱のプレイを1本の音源にしてしまい、音響やサブのDJ機材からその音を流しっぱなしにして、機材の前でひたすらに当てぶりをし続けるという、信じられないタレントDJすらもいる。

 それでもやはり、毎日この日本のどこかで、パーティーのメインとしてタレントDJがブッキングされ続けているのは、DJとしての腕前の良し悪しがお客さんには伝わり切らないのがひとつの原因なのだと思う。DJといっても様々な種類があって、ここでのDJとはクラブDJを指すことにするが、DJは他の楽器の演奏者と違って、一から音を奏でているわけではない。悲しい極論を言うと、ひとたびスタートボタンを押してしまえば、素晴らしいアーティストが作った素晴らしい音楽がフロア全体に流れ、客が反応する。曲と曲の繋ぎ目は、BPMを正確に合わせてミックスしなくても、最悪フェードインフェードアウトで繋いでしまえば、お客さん全員が冷めるような違和感を生むことは無い。選曲も場違いでなければ、事故にはならない。

 もし歌やダンスだったら、レベルの差は様々あれど、人前に立って魅せられる程度の上手さってのはあると思うし、ギターやドラムなど他の楽器だって、しっかり演奏を成立させるまで一定の鍛錬は絶対に必要なはずだ。しかしDJだったら、最低限の知識と機材の使い方さえ分かれば、なんとなくは成立してしまうし、何が上手くて何が下手なのかを理解しているお客さんは少ない。

 そうなってくると、そこそこ腕前のある無名なDJ達が名を連ねるイベントよりは、自分も知っている有名人がメインで出演するイベントにお客さんが行きたくなってくるのは理解できるし、そっちの方が俄然集客出来るのであれば、オーガナイザーやクラブ側もそういったブッキングになるのは、自然な流れだと思う。

文學界 7月号

2020年7月号 / 6月5日発売
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