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発表からわずか3日で白紙撤回! BTSと秋元康氏のコラボ騒動――韓国エンタメはなぜ変化し続けるのか

発表からわずか3日で白紙撤回! BTSと秋元康氏のコラボ騒動――韓国エンタメはなぜ変化し続けるのか

文:菅野 朋子

『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(菅野 朋子)より #2


ジャンル : #ノンフィクション

「秋元康氏が女性を商品のように扱っている」

 そして、韓国での安倍首相像は、改憲を掲げ靖国神社に参拝するなど、日本の軍国主義の復活を目指す政治家というものだ。安倍首相と親密な関係にある秋元康氏とのコラボは、韓国のBTSファンにとって、到底受け入れられないものと映った。

「秋元康は右翼性向の濃い安倍政権の政策に主導的に参与している人物」「第二次世界大戦の戦犯国家の戦争美化は、韓国だけでなく世界的にも多くの非難を浴びている」「世の中に向けた防弾少年団(BTS)の真心が毀損(きそん)されることがないよう守ってくれることを祈ります」(韓国ARMY要求事項より)

 また、別の韓流ファンの団体は「秋元康氏が女性を商品のように扱っている」「(秋元氏が作詞した)歌詞は女性を卑しめ、セクハラ的」と非難した。

 ツイッターなどのSNSを見ると、日本の「ARMY」も同じ意見で、そうした理由から日本では「日本ARMYは秋元康を本当に嫌っています」や「秋元康が嫌だ。AKBじゃん、そこに(間接的に)オカネが入るのは嫌だ」など秋元氏自身を非難する意見が多く書き込まれていた。

韓国社会は女性差別的なものに敏感に

 韓国では秋元氏が過去に書いた歌詞における女性認識も問題になっていた。

 1985年の秋元氏の出世作、おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」では、「友達より早く/エッチをしたいけど」「おばんになっちゃう」という歌詞に対して、「パパとママに秘密で外泊するからその時に脱がせてって。歌っている本人たちは歌詞の意味を判って歌ったのだろうか」などの批判が書き込まれた。また近年のHKT48「アインシュタインよりディアナ・アグロン」(2016年)は、教科書に載っているアインシュタインよりも、アメリカのセレブ女優ディアナ・アグロンが好きだという歌詞内容で、「女の子はかわいくなきゃね、学生時代はおバカでいいという歌詞は女性を完全に見下している」などと書き込まれた。ディアナ・アグロンは、当時大人気だった米テレビドラマ『glee』の主要登場人物のひとりを演じて人気を得ていた。

 これまで触れたとおり近年、韓国社会は女性差別的なものに敏感になっている。

作詞した歌詞で女性を商品のように扱っていることが指摘され…

 BTSはメンバーが作詞作曲することでも知られるが、その歌詞の中に「女性嫌悪(ミソジニー)」的な表現が含まれているとし、「韓国ARMY」は2016年5月、BTSとHYBE社へ公式にそうした表現についての説明を求めたことがあった。

 問題視されたのは、2014年に発売されたBTSのリーダーRMらが作詞に参加した「ホルモン戦争」や「Can You Turn Off Your Phone」など5曲だった。前者では歌詞にある「オンナは最高のギフト」という表現や、後者では「食事を目で食うのか、女の子みたいに」というものなど、女性を商品のように扱っていることが指摘された。

 この2カ月後、BTSとHYBE社は回答としてこんな公式コメントを出し謝罪している。一部抜粋しよう。

「歌詞についてミソジニーに関する議論がされていることを知り、創作意図とは異なり女性を侮辱していると誤解される可能性があり、そのために多くの方々を不快にさせる可能性があると判断しました。(中略)Big Hitエンタテインメントと防弾少年団のメンバー全員は防弾少年団の歌詞とSNSのコンテンツにより不快にさせてしまった方々とファンの皆さまに心より深くお詫び申し上げます。(中略)至らない点について指摘していただければさらに努力し、ファンと社会のアドバイスに耳を傾けるようにします」

勉強しながら、問題解決へ寄り添っていける姿を見せたい

 その後、リーダーのRMは歌詞について女性学の教授に教えを請うたり、関連書籍を読んでいることなどが伝えられていたが、2021年9月、国連でのスピーチ後に出演したアメリカのABC放送の報道番組「Good Morning America」でもこう語っていた。

「個人的には2015年と16年、ミソジニーに関する指摘を多く受けました。そこから女性学の教授に歌詞について教えを受けたりしながら自らを振り返って、ジェンダーの役割や性平等問題に関して無関心だったのではないかと深く考えました。自分のできる範囲でこうした問題について関心を持ち、勉強しながら、(問題解決へ)寄り添っていける姿を見せたいと思っています」

 HYBE社は秋元氏とのコラボにおける騒動について、「誤解の素地がある可能性があり、それにより多くの方に居心地の悪さを感じさせることを知った」とし謝罪している。

 こうした背景を見れば秋元氏に関わる一連の出来事は自然な流れだった。

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