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鼎談 栗原康×松村圭一郎×森元斎 アナキズム会議<特集 アナキズム・ナウ>

鼎談 栗原康×松村圭一郎×森元斎 アナキズム会議<特集 アナキズム・ナウ>

文學界4月号

出典 : #文學界
ジャンル : #小説

 それから間もなく、ホワイトヘッドの「のちの展開」にも気が付き始めました。例えば、同時代だとブライアン・マッスミという、ドゥルーズ/ガタリを英訳していった人だったり、フランスならダニエル・コルソンみたいな人が、ホワイトヘッドとアナキズムを一緒に語っていたりした。自分の中では、ホワイトヘッドはアナキズムのような社会思想と全然関係ないものだと思っていたのが、そういった哲学者たちが先陣を切って一緒に論じていることに驚き、刺激を受けました。と同時に、日本にも鶴見俊輔という、ホワイトヘッドとアナキストを一緒に論じた先人がいることを発見し、自分もこういうラインでやれるんじゃないか、と。鶴見は必ずしもアナキストを自称してはいないのですが、アナキズム的に思考していくことが非常に多い人で。上意下達的なものに対し、必ずそこからズレていこうとする。そうした振る舞い――何かが固定しそうになると途端にズレていく在り方を、鶴見は「反射」と言いました。高校時代を振り返ってみると、これはまさに自分たちが無意識的にやってきたことなんじゃないか、と気づいた。例えば、夜ドンキにたむろっている時、ヤクザや半グレみたいな怖いお兄さんたちがやってくると、瞬時に「マズイ!」と判断してサーッと散っていくような反応ですね。そういう生活の知恵、直観的な判断みたいなものと通ずるものがあるな、って。

 とまあ、そうやって思索を深めていく中で出会ったのが、先ほど栗原さんが触れられたグレーバーの著作だったりします。

■人類学と「国家」

 松村 私が思想としてのアナキズムを勉強し始めたのはごく最近で、二〇一七年頃、お二人の本がきっかけでした。森さんの『アナキズム入門』とか、栗原さんの『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』ですね。最近でこそ『くらしのアナキズム』なんて本を書いていますが、それまではことさらアナキズムを自分の研究主題に据えたことはありませんでした。ただ、グレーバーの本と出会ったのは二〇〇五年頃です。当時、私は大学院生で、読書会で「ものの価値を考える」みたいなテーマから、グレーバーの『Toward an Anthropological Theory of Value』を読みました。この本にはアナキズム的な要素はあまりないんですが、人類学の理論としてすごく衝撃を受けた。その後、二〇〇六年に京都大学でグレーバーを呼んでシンポジウムを開催する機会がありました。それと同時期に、彼の『アナーキスト人類学のための断章』の翻訳が出た。その日本語版に彼が寄稿した「まだ見ぬ日本の読者へ」という序文がよくて、その中にマダガスカルの事例が出てきます。人々は、ほとんど政府がない状態だったにもかかわらず、みんな普通に生きてきた、と。かの地に滞在していたグレーバーは、そこがじつは無政府状態にあることに半年くらい気がつかなかった。そのエピソードが一九九八年から通ってきたエチオピアの村の人々の姿と重なりました。アフリカは社会も国家も非常に不安定で、しょっちゅう体制が変わる。外国に植民地にされたかと思えば解放され、社会主義革命が起きて軍部の独裁政権が始まったかと思ったら反政府軍が集結して追い出したり。言うなれば、「国家」が全然確固としたものとして存在していないわけです。だから、人々はそんなものに頼ろうという発想はほぼなくて、淡々と自分たちで自分たちの生活をやっている。その姿がグレーバーのいう「アナキズム」とつながるのか、というのはとても新鮮に思えました。エチオピアの人たちのそうした姿をずっと見続ける中で、「最後は国家が何とかしてくれる」と信じて疑わない日本とは対照的だな、と気づいた。そこから「国家がどうあろうと、何とか暮らしていくためにはどうしたらいいのか」という問いが生まれ、人類学を通して国家という存在を捉え直す、という試みが始まりました。


くりはら・やすし●政治学者。1979年生まれ。著書に『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』『執念深い貧乏性』『サボる哲学 労働の未来から逃散せよ』など。

まつむら・けいいちろう●文化人類学者・岡山大学准教授。1975年生まれ。著書に『うしろめたさの人類学』『はみだしの人類学 ともに生きる方法』『くらしのアナキズム』など。

もり・もとなお●哲学者・長崎大学准教授。1983年生まれ。著書に『アナキズム入門』『国道3号線 抵抗の民衆史』『もう革命しかないもんね』など。


構成●辻本力


 

この続きは、「文學界」4月号に全文掲載されています。

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