- 2022.03.23
- 特集
世界のクラシック音楽シーンを更新し続ける23歳、藤田真央。トップピアニストの初連載「指先で旅をする」スタート!
文:WEB別冊文藝春秋
「指先から旅をする」(藤田 真央)
出典 : #WEB別冊文藝春秋
今回お話をうかがったのは、欧州でのコンサートツアーから帰国されたばかりの2022年2月15日。
テルアビブでの奇跡のような演奏会。エルサレムの地で考えた、宗教と音楽のこと。
自分に「合っている」と語る、モーツァルトについて。
旅の興奮冷めやらぬままに、熱く語っていただきました。
○
2022年1月26日。わたしははやる心をおさえ、羽田空港に向かっていました。フランス、イギリスを経て、イスラエルを廻る約一か月の欧州ツアー。これから訪れるであろう素敵な出逢いに思いを馳せながら、パリに向かう飛行機に飛び乗ったのでした。
1月28日にはフランス西部のナントで、ベートーヴェンの《ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58》を、2月3日にはロンドンでラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲 イ短調 Op.43》を演奏しました。
それぞれに素晴らしい夜でしたが、その後訪れたイスラエル・テルアビブで、わたしは生涯忘れ得ぬであろう体験をしたのです。
テルアビブ公演で弾いたのは、モーツァルトの《ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K. 467》。この美しい第2楽章〈アンダンテ〉には、主題のへ長調からニ短調を経て、再現部の変イ長調へと移っていく、繊細なパッセージがあります。
そこはピアニストからすると、通り抜けるのがたいへん難しい場所。わたしの解釈だと、再現部はそうっとピアニッシモで進みたい。
指揮者のクリストフ・エッシェンバッハはわたしの意図をよく汲み取ってくれました。イスラエル・フィルハーモニーは、ふわっと優しい極上の土台を築き上げ、わたしはその土台にピアノの音をすっと乗せる。瞬間、鳥肌が立つほど美しい音楽の磁場が、そこに生まれました。
ピアノの音が辿る先を、その場にいるすべての人が追っている。演奏者と聴いてくださっている方が、同じ空間でつながっていることを、肌身で体感できたのです。それはまったく、信じられないほど素晴らしい時間でした。
この音にすべてを捧げたい――震えが止まらなくなるような感覚を覚えながら、わたしはそう願っていました。
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