読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア
出典 : #WEB別冊文藝春秋
「群像新人文学賞」出身で、デビューから約20年というキャリアを歩むお二人。島本さんは『ファーストラヴ』で直木賞を、村田さんは『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、ますます精力的に作品を発表。 変わりゆく価値観のなかで小説を書くことの困難さや、世間の「普通」に抗いながら、その一方で自分の「普通」が誰かを傷つけることを恐れる気持ちなど、やっと語り合えたという最前線作家の本音とは?
司会・構成 瀧井朝世
——本日は「創作と変化」というテーマでお話を進めます。その前におうかがいしますが、お二人はこれまでにも交流があるそうですね。
島本 年度は違いますが、もともと村田さんと私は同じ群像新人文学賞の受賞者で、しかも二人とも優秀作だったので、出身がまったく一緒なんです。私、村田さんが受賞された時に会場に行っているんです。
村田 自分が23歳で受賞した時、選考委員の方々以外の方で初めてお会いしたプロの作家さんが島本理生さんでした。その前から作品を読んでいてすごく好きだったので嬉しくて。しかも入選作を全部読んでいらして、ひとりひとりに丁寧な感想を言ってくださって、それもすごく嬉しかったです。
島本 それからは、小説で賞を獲ると授賞式があるのでそういう場や、あとは作家飲み会でお会いしたりして。
村田 日本酒の会を作ったり、一緒に旅行したり。
島本 私は村田さんにお会いして話を聞くたびに、「ああ、村田沙耶香さんだ」って実感しています(笑)。最近だと、自分の年齢をずっと大きく間違えていた話が印象的でした。
村田 最初に自分の年齢が分からなくなったのは小学生の頃で、「もうすぐ10歳だ」って思っているうちにすっかり10歳になった気になって、誕生日に「11歳だね、ゾロ目だ」って言ったら両親が「まだ10歳だよ」って。数字にすごく弱いんだと思います。
島本さんは優しくて面倒見がよくて、何人かで飲んでいる時にひとり落ち込んでいる子がいたりすると、その子にすごく優しく声をかけているんです。島本さんの小説を読んでも言葉が真摯で誠実で、鋭くて打たれるんですけれど、普段も言いづらいこともちゃんと言う、強い優しさがある。一緒に旅行していても「私はあれが見たいから」とちょっと別行動したりとか。自分が見つめたいものを見る時間をちゃんと持っているイメージがあります。
——お二人とも作家になってほぼ20年ですが、振り返ってみてご自身の変化を感じますか。
島本 私は純文学の賞でデビューして、その後エンターテインメント系の雑誌に書くようになり、一時期は両方で書き、最終的に『ファーストラヴ』という小説で直木賞をいただいて。「これからはエンターテインメントだけ書くんだな」と思った読者も多いと思いますし、私もそう思っていたんですけれど、最近、初期作品を、作家として成長した今の自分の目線でアップデートしたいな、と思うようになって。
◆20年の月日が変えたもの ◆コロナ禍だから生まれた物語 ◆いまだから読んで欲しい、お薦めの本 ◆自らの五感で書く
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。