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座談会 大森静佳×川野芽生×平岡直子 幻想はあらがう<特集 幻想の短歌>

座談会 大森静佳×川野芽生×平岡直子 幻想はあらがう<特集 幻想の短歌>

文學界5月号

出典 : #文學界
ジャンル : #小説

短い文字数のなかで幻想と写実のあわいを描いてきた現代短歌。

中でもリアリズムとは違った作風で注目を集める三歌人による初鼎談。

幻想の短歌とは、そして短歌の幻想とはなにか。


「文學界 5月号」(文藝春秋 編)

■アンドロイドの系譜

 平岡 今日はよろしくお願いします。大森さん、川野さんとは短歌雑誌の誌面でご一緒する機会が多くて、去年発売された『葛原妙子歌集』(書肆侃侃房)には、三人全員が栞文を書いています。プライベートでも交流があって、三人のLINEグループもあるくらいなんだけど、仕事として三人で話すのは意外と初めてなんですよね。ちょっと緊張します。今回は短歌における「幻想」について話してほしいというオーダーで、それぞれが幻想的だと思う歌を五首選んで、また、お互いの短歌からも一首ずつ挙げています。

 大森 よろしくお願いします。「幻想」って意外に語られてこなかったテーマですよね。私は今回のお話をいただくまで、平岡さんと川野さんだったら川野さんのほうがより幻想的な作風なのではないかと思っていたんです。でも幻想ということを強く意識しながら歌集を読み返していたら、いまの私には平岡さんの『みじかい髪も長い髪も炎』のほうが川野さんの『Lilith』よりも幻想的に思えて、そこが意外で面白かったですね。

 モチーフとしては『Lilith』のほうが、竜が出てきたり天使が出てくるのでいわゆる幻想らしいのですが、その背景にある理屈や主張、因果関係のようなものはかなり現実世界への告発という文脈に貫かれている気がします。一方で平岡さんは、ちょうど『葛原妙子歌集』の栞文で、葛原の作歌方法について「景色の『見慣れなさ』を歌のうえに再構成することが、葛原にとってもっとも写生的な行為なのではないか」と書いています。これまで「幻視の女王」と呼ばれ、それこそ幻想的な作風とされてきた葛原妙子に対して「写生」という言葉を使っているのがとても新鮮だったのですが、同じような見方は平岡さんの歌にもできるのかなと思いました。平岡さんの短歌は出てくる物自体は幻想的ではないのだけれど、そこにある見方とか理屈というものがちょっと歪んでいたり、壊れているように見える。そういう見せ方をしている点で葛原と重なってくるのかなと。

 川野 私、いつも平岡さんが歌で何をやっているのかあまりわかった気になれなかったんです。歌自体は好きだし、他の人が書いた書評や解説を読むとその書評で言われていることもわかるんですけど、じゃあ果たして平岡さんが短歌でやっていることってそれなのか? みたいな疑問がどうしても出てきてしまって。間違いなくみんな、平岡さんの歌が大好きなんですよ。「すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく」とかも、台風が来るたびにみんなタイムラインに流している印象があります。意味はよくわからないのにみんなが心を掴まれている感じがあって、それがこの葛原歌集の栞文を読んだときに平岡さんのことを少しだけわかった気がしたんですね。「他人に内面があるなどととても信じられず、そのわりに他人がすべて奇妙な行動原理によって動くことが不気味で」と書いてあるんですが、これを書いている人は、たぶん自分も内面とか行動原理というものがないアンドロイドみたいな存在なのではないか。この栞文を読んでから平岡さんの歌集に戻ると、これはアンドロイドが書いている短歌だという気持ちになりました。何をやってるのかわからなかったのは、この作者本人も他人が何をやってるかわからないからなんだって。人間が人間の心を動かすんじゃなくて、アンドロイドが良くわからないことをやっているのを見て、人間がそれに心を動かされてしまうようなところが面白い。平岡さんの早稲田短歌会の後輩である山中千瀬さんを思い浮かべました。山中さんはある種の「嘘」という概念が好きだと仰っているのですが、平岡さんの歌もその概念で説明できるのかもしれないと思ったんです。嘘のことを言ってそれに勝手に人が心動かされてしまうような系譜……アンドロイドの系譜があるのかもしれないと思いました。ただ、平岡さんが幻想的かというところには疑問があって。私の思う幻想のイメージは現実と異世界とのあわいで揺れるような感じなのですが、平岡さんの歌は言葉そのものの化学反応みたいなところが強い気がします。

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