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座談会 大森静佳×川野芽生×平岡直子 幻想はあらがう<特集 幻想の短歌>

座談会 大森静佳×川野芽生×平岡直子 幻想はあらがう<特集 幻想の短歌>

文學界5月号

出典 : #文學界
ジャンル : #小説

■身体から離れていく歌

 大森 おそらく今日の三人の選歌を見てもそれぞれの幻想観は違いますよね。私は幻想ってそもそも何なのかというのを、これまで本気で考えたことがありませんでした。自分の歌を幻想的だと思ったこともないし、他の歌人の歌も、幻想的かどうかという基準では読んだことがなかった。そもそも短歌の批評をするときに、あまり幻想という語彙を使うのを聞いたことがなくて、その代わりに「暗喩」とか「心象風景」という言葉を使っている気がします。それは、短歌が基本的には五七五七七の韻律の内側からカッコつきの「私」が声を発しているという前提を持つからで。暗喩や心象風景は自分の心の内側のことだけど、幻想と言ってしまうと外の世界がそう見えるというニュアンスになる気がするんです。短歌で幻想というのは実は相性が良くないのかもしれない。もちろん幻想の定義にもよるんですけど。

 平岡 うん、よくわかります。

 大森 だから五首選ぶのはすごく難しくて、これは幻想だと自分が堂々と言える歌を挙げていって、そこから逆に自分の幻想感を抽出してみた感じです。結果として、自分の身体から逃げ出すというか、現実の身体との距離感が遠いほど幻想と私は認識しているのかな、という傾向は見えてきました。変身の歌や、ものが別のものになる歌、見ているものと見られているものが混濁するような歌とか。そんな風に考えたときに『Lilith』は生身の身体から声を発している手触りがあって、平岡さんの歌集は身体からの飛距離がものすごいことになっている歌が多かった。でもこれは、たぶん川野さんの幻想の定義とは違うんだろうなと思いながら、いま喋っていますが。


おおもり・しずか●歌人。1989年生まれ。「塔」編集委員。2010年「硝子の駒」で第56回角川短歌賞受賞。歌集に『てのひらを燃やす』、『カミーユ』。評論に『この世の息 歌人・河野裕子論』。第三歌集『ヘクタール』(文藝春秋)を7月に刊行予定。

かわの・めぐみ●歌人。1991年生まれ。2018年「Lilith」により第29回歌壇賞を受賞。21年、歌集『Lilith』により第65回現代歌人協会賞受賞。短篇小説集『無垢なる花たちのためのユートピア』(東京創元社)を6月に刊行予定。

ひらおか・なおこ●歌人。1984年生まれ。2012年「光と、ひかりの届く先」で第23回歌壇賞を受賞。歌集に『みじかい髪も長い髪も炎』(本阿弥書店)がある。初の川柳句集『Ladies and』(左右社)を5月下旬に刊行予定。


 

この続きは、「文學界」5月号に全文掲載されています。

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