
- 2022.04.27
- ちょい読み
ダメダメな父の奮闘に思わずほろり… 息子を救う鍵はオンラインゲーム!?
WEB別冊文藝春秋
冲方丁「マイ・リトル・ジェダイ」#007
出典 : #WEB別冊文藝春秋
ジャンル :
#小説
勝利への突破口がみえないチーム・リン。
すっかり足手まといになってしまったノブは――
第四章 作戦開始‼
Let’s start our plan!!
1
おれはものすごいゲーマーでも、物事がよくわかる人間でもないけど——と暢光は自分に前置きし——でも、これじゃダメだってことはわかる、と思いながら、卓袱台の上のモニターを見つめた。
今夜もチームでのプレイを終えたばかりだった。かれこれ五回目で、到底、意欲的とはいえないプレイだ。一応、十一人全員が集まったものの、もっぱら、凜一郎と達雄くんの二人と、一人で自由に振る舞う明香里と、残り八人に分かれてのプレイになった。
ときおり凜一郎と達雄くんが暢光たちのプレイに参加し、大人たちの悪戦苦闘にしばらく付き合いつつ基本的なアドバイスを口にすると、自分たちのポイント稼ぎのためのプレイに戻るという有様だった。
明香里は、母親に言われてチームに参加したかと思えば、「リンと遊ぶ方が上手くなる」と言って凜一郎がいるマップに移動して一緒に遊び、「なんか同じことしてると飽きちゃうよね」と言って、一人でミニゲームをしたりと気ままに振る舞っている。
完全に凜一郎と達雄くんにとっては足手まといでしかなくなったチームを、どうしたらいいか、暢光にはまるでわからなかった。
それでも最初のプレイに比べ、みな操作のこつやマップを覚え、ゲーム開始時点でほぼ壊滅状態ということは、あまりなくなっている。
だが、練習を重ねるほどに、こんなのいわゆる「無理ゲー」だ、という気分がみなを支配していった。凜一郎を大会に出してやるための一般参加料を払うことはともかく、世界中の国でトップを狙う人々が一堂に会する「スーパー・バトルロイヤル」や「ビッグ・アスレチック」といったトーナメントに参加するには、ポイントが足らなすぎる。
武藤先生などは、早々に現実を悟り、暢光にだけこう言った。
「凜一郎くんと話したり一緒に遊んだりすることができるのは素晴らしいことだが、さすがに子どもがプロの大会に出るなんて無理だろう。それより、ゲーム会社に相談して、脳波コントローラーとやらで凜一郎くんが好きにいろんなゲームができるよう頼んでみてはどうだね? すごい大会にこだわるのも、あのゲームしかできないからだろう。他のゲームでも遊べるようになれば、大会にこだわるのをやめるかもしれない」
とはいえ、ネットにある情報によれば、脳波コントローラーはシムズ社によるエイプリルフールのネタに過ぎず、実際、亜夕美がシムズ社に問い合わせたが今にいたるまで返事がないのは、冗談を真に受ける面倒な客だと思われているからだろう。
しかし武藤先生は、他に理屈が存在しないので、脳波コントローラーこそ最も可能性が高い説とみなしていた。芙美子さんが唱えるような、「霊魂がゲームに乗り移った」風なスピリチュアルな説は武藤先生の好みではないのだ。
「霊魂とか死後の世界とか、考えても仕方のないことは、考えない方がいい」
というのが武藤先生の持論なのだが、それはともかく。暢光にとっての最優先事項は、凜一郎が現実世界への「帰り道」とみなす大会へ出場させてやることであり、そのための条件をクリアすることだ。それで本当に凜一郎が目覚めるのかはわからないが、今はそれしかしてやれることがなかったし、それができないことで凜一郎を失望させるのが怖かった。
もちろん、父親として頼りないと思われることを恐れているのではない。辛いことだが、すでに何度もそう思わせてしまっているのだから。
それより何より、凜一郎が、自分のしていることは無駄だと思った瞬間、ゲームの中からも消えてしまって、二度と話すことができなくなるのではないか。そう考えただけで、悲しみと恐ろしさでどうにかなってしまいそうになる。きっと亜夕美や芙美子さんも、同じように感じていることだろう。
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