『武士の流儀』シリーズ第1巻が発売されたのは、2019年6月。
『剣客船頭』(光文社文庫)や『浪人奉行』(双葉文庫)など、多くの人気シリーズを持つ稲葉稔さんが主人公として描いたのは、これまでのシリーズとは一味違った、ダンディーな若隠居・桜木清兵衛。
正義感の強さと人のよさを併せ持ち、いざとなったら剣も強い! 清兵衛は、多くの読者の心をつかみ、巻を重ねてきました。
人気シリーズの裏側を、稲葉さんに特別に明かしてもらいました。
◇ ◇ ◇
――本作の主人公は、元与力ながら現役ではなく、若くして隠居した桜木清兵衛です。この設定にした理由は?
現役の与力や同心が活躍する小説は数多くあるので、あえて隠居にしたらどうであろうかと考えたのが発端です。しかし、ただの隠居では面白くない。医者の診立ての誤りで、早隠居するはめになったやり手の与力だったらどうであろうかと考えました。
――清兵衛は、いまの言葉でいう“イケオジ"。ダンディーな風貌と、与力時代に培った剣の腕、それに推理力、行動力が魅力的です。人物造形でとくに留意された点などありますか?
清兵衛の人柄を考えるうえで、真面目で凄腕の与力というのでは、あまりにも味気ない。若いときにハメを外し、酸いも甘いも経験していなければならない。だからこそ人間的深みが出るのだろうし、他人への理解力もあると考え、そのような設定を心がけています。
――妻の安江さんにちょっと弱いところもほほえましいですね。どういった夫婦に、と考えていらっしゃいますか?
清兵衛が唯一気の許せる相手は最愛の妻でなければならない。また苦労もかけてきた手前、決して亭主関白にはなれない。
安江については、年齢を重ねるごとに発言力を増す現代の奥様を想定して書いています。そうは言っても二人はおしどり夫婦であってほしいという思いがあります。
――女優さんや、ほかの小説の登場人物などでモデルにした方はいらっしゃいますか?
あくまでも空想の女性で、モデルにした人はいません。
――板津匡覧さんが担当される装画は、渋かっこよさがにじみ出る清兵衛像が印象的です。最初にご覧になったときの感想などあればお聞かせください。
少しジジイ臭いかなと危惧しましたが、それがかえって味わい深さになっていますね。これからもよろしくお願いいたします。
――稲葉さんは、脚本家としてもご活躍されてきました。脚本と小説のご執筆には、どのような共通点や違いがあるのでしょうか?
共通点で言えば、登場人物のキャラクター付けでしょうか。そこが一番苦労するところです。ストーリー展開もかなり似ていると思いますが、脚本では細部の動き(これは監督やディレクターの仕事になります)は書きませんから、その辺が一番ちがうと思います。
――稲葉さんご自身が、読者としてお好きな小説、とくに時代小説があれば教えてください。
難しい質問ですね。あえてあげるならば、池波正太郎の「鬼平犯科帳」でしょうか。
――2019年6月の第1巻発売から3年、今作で7巻を数えることになりました。毎回、新刊を待っていてくれる読者にメッセージをお願いします。
毎巻楽しみにしてくださっている愛読者様には心より感謝しています。巻を重ねても決してトーンダウンしないように頑張りますので、これからも応援お願いいたします。