- 2022.07.28
- 文春オンライン
「オレ不器用だからさ」ドリフターズと同じ時代を過ごした放送作家が振り返る、いかりや長介の“最後の言葉”
高田 文夫
高田文夫が『ドリフターズとその時代』(笹山敬輔 著)を読む
ドリフターズに関しては、あれ程国民の記憶に残るのにキチンと語る人は居なかった。お子様向けであり分りやすいがゆえにそれ以上の解釈は必要としなかったのだろうと著者は言う。ほぼ初めてである日本の演劇史の中におけるドリフ喜劇論。よくぞここまで調べて書きあげたもんだ。著者は喜劇人のことを今、日本で一番調べあげている男だ。
“絶対的リーダー、完璧主義者”のいかりや長介、「ボーヤあがり」と蔑まれながらも“最後の喜劇王”と呼ばれるまでになった志村けん。この「笑い」に賭けた男と男の確執、対立が後半の盛りあがり。ここまで内部の人間関係を書いた本は無かった。本のタイトルがまず私の胸をしめつけ、長兵衛(当時メンバー、スタッフ間ではいかりやをこう呼んでいた)の怖い顔がよぎった。
「ドリフターズとその時代」だが、私にとっては社会へ出た1年目だった1971年から81年。
ドリフは当時のエンタメの憧れ有楽町の日劇に出演が叶った。ここで、演出家で作家の塚田茂に徹底的にしごかれる。「舞台は大きく使え」「リアクションを派手に」。TBSで「全員集合」が始まる。塚田茂の弟子のようなものとして入った私はいきなり作家見習いとして同僚Mと共に「全員集合」に預けられる。伝説の会議である。大きな稽古場に長ーいコの字形の机。先頭にひとり長兵衛が座り、右側にプロデューサー、ディレクター。長兵衛のとっさの発注にもすぐに応えられるよう、美術、技術、衣裳他が並ぶ。左側にはベテラン作家の塚田や前川宏司、田村隆らがズラリ。ドリフの面々(荒井注はいつも鼻毛を抜いていた)、そして一番下っ端で出口の扉の所に小さくなって私。トイレへ行こうとそっとドアを開けると、ボーヤの志村が氷水の入った冷たいヤカンを下げていた。いつ長兵衛に呼ばれてもサッと水を持って行けるようにだ。作家が持ち寄る設定・企画を一瞥してそのまま、1時間2時間、黙考する長兵衛。哲学するゴリラである。私は半年で逃亡し、三波伸介の番組をやりまくる。裏にフジテレビ「欽ドン」が来て、足元に火。だが志村投入、「カラスの勝手」で大ブレイク。そんな時、フジを中心に漫才ブームが吹き荒れ、81年には私、「ビートたけしのANN」「オレたちひょうきん族」に携わる。ついに「全員集合」が敗れる。いかりやと志村の溝が深まる。いかりやは番組内容からは遠ざかっていく。「全員集合」に残ったMは「志村が一番嫌がっていた昔の長兵衛そっくりになっちゃってさ」。
後に渋い刑事役などやっていた頃のいかりやに、路上でバッタリ。手を差し出してきて「あの頃は若かったからさ。いやな思いもさせたろ。たけし君とか高田君のような笑いも正しかったんだよ。オレ不器用だからさ」。これが最後にきいた言葉。半年後、いかりやはこの世を去った。「ダメだこりゃ」。
ささやまけいすけ/1979年、富山県生まれ。演劇研究者。筑波大学大学院博士課程人文社会科学研究科文芸・言語専攻修了。博士(文学)。著書に、『演技術の日本近代』、『幻の近代アイドル史』、『昭和芸人 七人の最期』、『興行師列伝』などがある。
たかだふみお/1948年、東京都渋谷区生まれ。放送作家、タレント、文筆家。「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」放送中。著書多数。
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