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夏休み特別企画! 「小説で旅する台湾」郷愁や異国情緒を誘う名作をご紹介

夏休み特別企画! 「小説で旅する台湾」郷愁や異国情緒を誘う名作をご紹介

文:大矢 博子

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

 乃南アサ『六月の雪』は、台南で生まれ育ち終戦で日本に帰ってきた祖母の故郷を、孫娘が旅する物語である。祖母の記憶に残る家や街並みを探す過程で、主人公は日本と台湾の間にあった複雑な歴史を初めて知ることになる。

1936年にできた台南駅舎。台湾最西部に位置する。1998年に台湾の文化資産に登録された。
1941年に建設された高雄の旧駅舎。2003年に文化資産として登録された。

 こちらにも、東京駅に似た建物が登場する。台南の元州庁だ。日本の面影を残す建物を見て、日本語を話す人々と会って、主人公は台湾を「外国じゃなかった時代のある外国」と考える。そして「曲がりなりにも一つの国として歩んできた国が、終戦と同時に、それほど日本と異なる歩み方をしてきたこと」に衝撃を受けるのである。

戦中戦後の台湾の動乱を青春小説として昇華

台湾南西部に位置する台南。「台湾」という地名はもともと台南を指した。多くの旧跡が残る街並みには南国らしい雰囲気が。

 戦中戦後の台湾の動乱を、熱量たっぷりの青春小説として昇華したのが東山彰良『流』。こちらの舞台は台北だ。

 一九七五年の蒋介石死去から物語が始まり、中国から流れてきた外省人ともとから台湾にいる本省人の関係が、それぞれの歴史も含め色濃く綴られる。混沌と無秩序の中を生きる十代の主人公の葛藤と青春の無軌道、挫折と成長。そして祖父の死を通し、家族の歴史に向き合う姿を力強く描いた骨太な物語だ。

台南小吃で知られるグルメの街。

 呉明益『自転車泥棒』も、現代の台湾を生きる人々が、語られなかった父親の人生を辿る物語である。

 主人公は台北で暮らす小説家。彼の父は九〇年代はじめに自転車と共に失踪していたが、時を超え、自転車だけが小説家と再会した。修理のためのパーツを探すうち、父親世代の人生の記録がさまざまな形で彼のもとに集まり始める――。

 物語は現在から九〇年代、戦後、そして戦中へと遡る。マレー半島のジャングルを走った銀輪部隊。ビルマで日本の師団と戦った者もいる。自転車を組み立てるようにそれらの歴史が合わさり、つながる。家族の物語であり世代の物語であり、そして、近いのに知らなかった台湾史の物語である。

 一度は同じ国だった外国。その歴史ゆえに、似ているけれど違う、違うけれど似ている国。だから台湾を描いた小説には、郷愁と異国情緒の両方があるのだ。


大矢博子(おおや・ひろこ)

書評家。著書に『女子ミステリー マストリード100』『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』等。アンソロジーの編集も多数ある。


(「オール讀物」5月号より)

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文春文庫
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定価:1,144円(税込)発売日:2021年05月07日

文春文庫
自転車泥棒
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定価:1,155円(税込)発売日:2021年09月01日

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