- 2022.10.27
- インタビュー・対談
小説、メモ、日記、レシピ、SNS……。短篇小説の名手が「書くこと」をテーマに紡いだ珠玉の短編集――『小説家の一日』(井上荒野)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
書くことで現れる生の感情
遠距離で不倫する男女が交わすメールのやりとり(「緑の象のような山々」)。アルバイト先の女が渡してくる走り書きの付箋(「園田さんのメモ」)。編集者が作家に告げた単行本刊行中止から始まるSNSの炎上(「何ひとつ間違っていない」)――。
井上荒野さんの新刊『小説家の一日』は「書くこと」をテーマにした短篇集。2017年から2022年にかけて「オール讀物」に掲載された作品がついに一冊となった。
「5年にわたって書いてきたんですか。その間、長野への移住など変化はたくさんありましたが、それほど時間が経っていたとは。びっくりしました。
最初に収録した『緑の象のような山々』が特に気に入っていますね。実はほとんど気づかれたことはありませんが、ヘミングウェイの短篇小説へのオマージュなんです。男の情けなさと女の絶望を描くのは楽しかったです」
本書には表題作をはじめ、作家の登場する作品が複数収められている。
「『つまらない湖』に出てくる小説家と私を重ねあわせて読む人もいるかもしれません(笑)。売れなくなった主人公の存在は、自分にとって全くの他人事というわけでもありません。時代に取り残され、書いたものが世に受け入れられなくなる不安を、小説家なら誰しも抱えていますから。今はまだ自分の感覚を信じながら、話題の本をチェックしています」
「細部を集めるようにしてストーリーを作る」と語る井上さん。具体的なモチーフの数々に、人間の生々しい側面が浮かび上がってくる。
「通りすがりの話し声、カーラジオから聞こえるお便り紹介といった、ふとした言葉が小説の素材になります。メモアプリに書き溜めて、小説の種をストックしているんです。後で見返したとき、思いもかけないストーリーが浮かんだりします。表題作の中にも書きましたが、Twitterはなぜかあまり小説の参考にはなりません。聞かせたがっている言葉からは、それ以上のことが伝わってこない気がします」
緻密に選ばれ積み重ねられた表現が、静かな迫力を持って人間関係を鋭く描き出す。
「十行費やした内容を三行で捉えられるなら、短くします。なるべく少ない言葉、『それしかない』と言える表現で小説はできあがっていてほしくて。短篇は何を書くかと同時に何を書かないかが重要なので、この方法は特に顕著かもしれません。その人だけに使える言葉で構成された、神経の行き届いた小説を読みたいですし、何よりそう書きたいと強く思っています」
いのうえあれの 1961年東京都生まれ。2008年『切羽へ』で直木賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞受賞。『あちらにいる鬼』など著書多数。
◆井上荒野さんのインタビュー音声はこちらからお聴きいただけます。
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