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打ち合わせなし。奇跡のセッションのような対談が続いた

打ち合わせなし。奇跡のセッションのような対談が続いた

山本 芳久

『キリスト教講義』(若松 英輔 山本 芳久)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『キリスト教講義』(若松 英輔 山本 芳久)

『キリスト教講義』は、私がこれまでに刊行したいくつかの書物のなかでも、最も思い出深い書物です。それは、なによりも、三十年にわたって親交を深めてきた畏友(いゆう)若松英輔さんとの初めての共著だからです。「キリスト教」をめぐる何度かにわたる二人の対談を書籍化したのが『キリスト教講義』ですが、その作成過程で、私も、若松さんも、担当編集者の鳥嶋七実さんもとても驚いたことがあります。毎回、ほとんど打ち合わせをせずに神学・哲学・文学の様々なテクストを持ち寄り、それらに基づいて対話を進めていったのですが、お互いの持ち寄るテクストが実に絶妙な仕方で共鳴し、その不思議な響き合いのもとに、「愛」や「神秘」や「言葉」といったキリスト教の本質に関わるテーマについての刺激的な対話を交わすことができたのです。古今東西の様々な書物が響き合うなかで、私も若松さんの心との新たな響き合いを感じながら対話を進めていくことができました。

 若松さんと鳥嶋さんと私、そして折に触れて同席してくださった文藝春秋の大川繁樹さんが共有していた、キリスト教についてのこれまでになかった書物を生み出したいという強い思いが、こうした不思議な共鳴の原動力になったのだと思います。そして、そこに生まれていた熱量の大きさが、この本に持続的な生命力を与えてくれているのだと、あらためて痛感しています。

 今回、『キリスト教講義』が文庫化されることとなり、私が何よりも嬉しく思っているのは、こうした「共鳴」や「響き合い」を新たな読者のみなさまと共有できる機会が与えられたからです。

 聖書であれ、アウグスティヌスやトマス・アクィナスなどの著作であれ、「古典」と呼ばれる作品に触れることが、単に知識を得ることに過ぎないのであれば、それほど退屈で無味乾燥な営みはないかもしれません。これらの「古典」を読むことに意味があるのは、それらの書物が、私達の心の内奥に深く触れ、「共鳴」や「響き合い」の連鎖を引き起こしてくれるからこそだと思います。

「まえがき」でも書きましたように、この本は、『キリスト教入門』でもなければ『キリスト教概論』でもありません。キリスト教についての基本的な知識を教科書的に提供する類(たぐい)の書物ではないのです。そうではなく、若松さんと私の心に深く触れ、生きる糧ともなっているキリスト教のテクストをお互いに共有するだけでなく、読者のみなさまとも広く共有していくなかで、読者の一人ひとりが、一つでも良いので、自らの心に深く触れるテクストを見出し、「共鳴」の連鎖が広がっていくことを願いながら、「対談」という臨場感のある形式でキリスト教の魅力と可能性について語り明かした書物なのです。

 そうした核となるテクストを一つでも見出すことができれば、心に蒔(ま)かれた言葉という種が少しずつ育ち、読者の一人ひとりがそれぞれの人生を生き抜くうえでの力となる大きな実りを結んでいってくれることでしょう。「言葉」にはそのような力があると私は強く信じています。キリスト教についてのたくさんの知識を頭に詰め込むよりも、心に触れる一つひとつの言葉との出会いを大切にすることこそが、イエスの伝えたメッセージを生かすための最善の道だと思います。

 詳細なブックリストも末尾に付しておきましたので、更なる言葉の種まきのために活用していただけますと幸いです。

 本書が「文春学藝ライブラリー」という形で新たな生命を与えられるにさいしては、担当編集者の加藤はるかさんから大きなお力添えをいただきました。記して感謝申し上げます。


(「文庫版あとがき」より)

文春文庫
キリスト教講義
若松英輔 山本芳久

定価:1,485円(税込)発売日:2023年06月07日

電子書籍
キリスト教講義
若松英輔 山本芳久

発売日:2023年06月07日

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