☆前回までのあらすじ
仕事場を鳩の愛の巣にされかけているが、私はまだ負けていない……! 負けてなどいないんだ……!
即席カカシ作戦もローズウォーター作戦も失敗に終わりました。
こうなるなら鳩ップルに目を付けられたと分かった時点で市販の防鳥グッズを取り寄せておくべきだった! とギリギリ唇を噛みしめましたが、今更言っても遅いです。
相変わらず、鳩ップルは私の仕事のベランダを乗っ取る気まんまん、それどころかあの感情の一切窺い知れない瞳で「さっさと諦めろ」とこちらに圧をかけて来る始末ですが、図太い彼らにもひとつ見誤っていることがあります。
それは、あいつらが目を付けたベランダの住人が、究極の在宅ワーカーであるということです。
私はお家が大好き!
小説の打ち合わせすらオンラインで出来るようになった昨今、家にいる時間はいよいよ長くなっています。
特に締切が差し迫る時期には近所のスーパーのタイムセールがある1日だけ外出し、1週間分の食料を買い込み、次のタイムセールまで家に籠り続けるという日々です。
だからこそ我が安寧の城にポッポーズが侵略してきたことでこれほどブチ切れたわけですが、裏を返せば、奴らが攻め込んで来る時、私は必ず家にいて即応出来るということです。
こうなったら、私がやるべきことはたったひとつ。
彼らが来たと気付いた瞬間、ダッシュでベランダに出て、その都度ご退散願うしかありません。
原始的ですが、シンプルかつ最も効果的な最後の手段とも言えます。
これが、三度目の正直です。
アホみたいな鳩との闘いをここまで読んで下さった奇特かつ賢明な読者の皆さんは、心の中で「二度あることは三度あるになるのでは……?」と嫌な予感がよぎったかもしれませんが、こちとら必死ですし大真面目です。そんなふざけた事態は絶対に避けねばなりません。
かくして、「根競べ作戦」の火ぶたがここに切って落とされました。
まず、ベランダは網戸にして、そこに通じる窓やドアは全て開け放ちます。そうすると音がよく聞こえるので、パソコンに向かっている時、料理を作っている時、テレビ体操をしている時、お風呂に入っている時、いつでもどこでも、奴らの爪がベランダの手すりを捉えたカチリという音――あるいは、こちらに近付いてくる羽音が聞こえた段階で、私は全てを放り出して現場に向かうことが出来ます。
そして、少しでも鳩ップルに「やべえ奴がいる。こんな所にいられるか!」と思ってもらえるように、動物愛護法に触れない範囲で最大限の威嚇をしました。
すなわち、勢いよく網戸を開けた後、両手足を広げ、奴らがその場から遠ざかるまで睨み続けることにしたのです。
理想としてはエリマキトカゲの威嚇です。
いや、補足しますとね、私が来ると確かにその場から飛び立ちはするのですが、それだけだと彼らは諦めないんですよ。前述したすぐ傍の電信柱まで退避した後、「んもう、さっさと引っ込めよ」と言わんばかりに2羽揃って私がいなくなるのを仲良く待っているわけです。
これで大人しく引っ込めますか!?
どう考えても喧嘩を売られていますし、売られた喧嘩は売られた瞬間に買い取らないと相手に舐められます。近所迷惑になるので我慢しましたが、状況が許すなら「近付いてみろよコラァ、やれるもんならやってみろオラア!!」と叫んでやりたかったですね。
出来ることなら、「ジュラシック・パーク」版ディロフォサウルス(※本当のディロフォサウルスには襟巻はなかったと言われています)のように、あの腹立たしいオレンジの瞳めがけて毒液を噴きかけてやりたかった……!
でも私には襟巻も毒腺もなく、声も出せないので、迫力的にはせいぜいアリクイの威嚇レベルだっただろうなと一応客観視は出来ています。
はたして、私のとろくさい威嚇は彼奴らに通用するのか――!?
なんで鳩との闘いだけこんな大長編になっているんだ? と書いている本人が一番疑問に思っていますし、読み続けて下さっている方がどれだけいらっしゃるのかも分かりませんが、困ったことにまだまだ続きます。
☆次回、共に鳩に相対する戦友現る――!?
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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