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東大、京大などの入試問題から、現代の諸問題を考える上で手がかりになる日本史の良問を解説!

東大、京大などの入試問題から、現代の諸問題を考える上で手がかりになる日本史の良問を解説!

『大人の学参 まるわかり日本史』(相澤 理)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『大人の学参 まるわかり日本史』(相澤 理)

 筆者が高校や予備校の教室で問題演習の授業をするとき、常に心がけているのが、「楽しそうに問題を解く」ということです。時おり「これは良い問題だ」という言葉を挟みながら、それがどのような点で「良い問題」なのかも説明します。

 もちろん、中には出題の意図が分からない、首をかしげたくなるような問題もあるにはあるのですが、そうした素振りを生徒に見せることはありません。それは、そうすることで生徒にとって得になることが、何一つないからです。それよりもむしろ、「良い問題」に対してはっきりと「良い問題」だと言い、楽しそうに解いていた方が、生徒もその問題に興味を持ってくれて、得られるものが大きいでしょう。学びの道はいつも、その対象への興味関心、少し格好つけて言えば、「知的好奇心」によってこそ開かれます。

 我が身を振り返れば、筆者はそういう本ばかりを書いてきました。東京大学の入試問題をただ解くという本が、幸運にも数多くの読者を得られたのも、東大の先生方が繰り出す問いに対する私の熱量のようなものが、きちんと伝わったからなのだと思います。そして、本書でも、そのような姿勢はまったく変わりません。

 さて、それでは「良い問題」とはどのような問題なのでしょうか? 筆者には、三つの基準があります。

 まず一つめは、「自明に思える物の見方や考え方に揺さぶりをかけてくる」ということです。それまで当たり前のように考えていたことが、別の角度から光を当てることによって、あるいは、史料を掘り下げて読むことによって、新たな一面が見えてくる。それが歴史を学ぶ面白さですし、入試問題にも、新しい研究成果を踏まえて従来の「常識」を問うようなものが見られます。そしてまた、そうした問題に敏感に反応して、自らの持つ知識をアップデートしていくことも、教える者にとっては当然の努めです。

 続いて二つめは、「この国の成り立ちが見えてくる」ということです。もちろん、歴史上の人物には魅力あふれるエピソードが多々ありますが、この国の歴史を学ぶからには、私たちが生きているこの国が、いかにして今こうなっているのかが分からなくては意味がありません。入試問題にも、一つめのことと連動しながら、「この国の成り立ち」について考えさせられる問題があります。また、現代の社会や文化にも、私たちが想像する以上に歴史が深く刻まれています。そのようにこの国の成り立ちとして歴史を理解することで、真っ当な形でこの国を愛する心が養われるでしょう。

 最後に三つめは、これも一つめ二つめと連動していることですが、「現代の諸問題を考えるうえで手がかりを与えてくれる」ということです。例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領を招くなど広島サミットで世界に対するアピールに成功した岸田文雄首相や、まさに「日本の顔」として各国とのトップ外交に努めた安倍晋三元首相の外交手腕は、内政に対する賛否両論を抜きにして正当に評価されるべきものと筆者は考えますが、そうした外交能力は、この国の国際的環境の中で鍛えられてきたものであるということが、古代以来の対外関係を概観することで見えてきます。

 実は、そのような現実的な関心に基づく出題というのが、入試問題には散見されます。例えば、平成から令和への移り変わりに際して、皇室のあり方や皇位継承のあり方が広く議論の対象となりましたが、そうした中で、古代や中世において皇位継承がどのようにして行われていたのかということが、一大テーマとなっていました。歴史を通して今を考える、それもまた歴史を学ぶ意味です。

 本書では、これら三つの基準に即して、大人の学び直しにも耐えうる「良い問題」を古代から近世まで十二問、精選しました。

 まず、一つめに関しては、後醍醐天皇の「建武の新政」が長続きしなかった理由を問う中世2や、田沼意次の財政政策を問う近世3の問題を通して、従来の教科書とは異なる後醍醐天皇像、田沼意次像が見えてくるでしょう。あるいは、律令制(太政官制)と摂関政治の関係を問う古代3の問題なども、新鮮に映るかもしれません。

 次に、二つめに関しては、本書は古墳の変遷を通じて古代国家の進展を問う古代1の問題からスタートします。その後、古代の農村社会の変容を問う古代4や、江戸幕府の支配体制の根幹を問う近世1、享保の改革における物価政策を問う近世2の問題などから、この国の歴史がどのような原理で動いてきたのかを理解することができるはずです。また、院政期から鎌倉時代にかけての宗教・文化の受容層の広がりについて問う中世4の問題からは、この国の文化の成り立ちを知ることができるでしょう。

 最後に、三つめに関しては、遣隋使の外交態度を倭の五王のそれと比較する古代2の問題や、江戸時代における「鎖国」下の日中関係について問う近世4の問題が、先に述べた私たちに具わる外交能力に関わります。また、中世における皇位継承のあり方を問うたのが中世1の問題です(その他、古代3や中世2の問題も皇位継承に関係します)。さらに、史料や絵図を用いて中世の農村のあり方を問う中世3の問題は、現代の農業が抱える課題や、これからの教育のあり方についても考えさせられます。

 前置きが長くなりましたが、本書では、以上の点を踏まえ、「良い問題」の良さを十分に引き出すべく、言葉に魂を込めて書きました。ですので、皆さんもどうぞ二度読んで、その奥深さを味わい尽くしてください。一度めは、歴史を学ぶ楽しさを体感するために。二度めは、歴史を学ぶ意味を理解するために。


<まえがきより>

文春新書
大人の学参
まるわかり日本史
相澤理

定価:990円(税込)発売日:2023年08月18日

電子書籍
大人の学参
まるわかり日本史
相澤理

発売日:2023年08月18日

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