この度大変ありがたいことに、八咫烏シリーズが第9回吉川英治文庫賞を頂きました。過去にはファンタジー作品の先達、『しゃばけ』や『十二国記』、『守り人』シリーズなどが受賞された素晴らしい賞です。尊敬する先輩方の後輩となれたことが非常に嬉しく、選んで頂いたこと、心より光栄に思います。
しかし記者会見の席でも申し上げましたが、この受賞は決して私一人の力によるものではありません。大前提として、八咫烏シリーズを応援してくれた読者の皆様の力があってこそであり、個人としての私を支えてくれた家族や友人達がいてこそであり、何より、作家としての阿部智里を育て、八咫烏シリーズを世に広めようと頑張ってくれた多くの関係者の努力が評価された結果だと思っております。
この場を借りてここまで私とシリーズを支えて下さった全ての方に、心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございます! 引き続き精進して参りますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
ただの「原稿」を「本」という形にして、多くの読者さんのもとへと届けるまでには、たくさんの方の協力が必要です。中でも、読者さんと密接な関わりがあるのが書店員さんで、八咫烏シリーズは過去にPOPコンテストや店内装飾コンテストを行うなど、非常にたくさんの書店員の皆様のお力を借りて参りました。
実は受賞のお知らせも、名古屋の書店さんへの挨拶回りの真っ最中に頂いたのです。と、言いますのも、もともと名古屋、大阪、京都の書店さん訪問を3月4~5日に予定していたのですが、それが記者会見の日と被ってしまうということが分かったため、「万が一受賞したら、流石に名古屋から帝国ホテルに瞬間移動は出来ないでしょう。でもまあ、受賞したか否かのお知らせをもらうだけなら書店さんまわりの最中でも問題ないですよね(笑)」という編集さんのクールな采配によってリスケすることになったのです。
念のため、何時にお知らせが来るかだけは確認してもらい、「これなら移動時間中にお知らせが来るでしょうから、行ける行ける!」みたいなノリで出張は強行されました。
その時点では13時半に連絡が来ると聞いておりましたので、私と編集さんと営業さんは予定通りに書店さんに伺い、挨拶をし、サイン本や色紙を書かせて頂いておりました。
そして、とうとう電話がかかってきたのです。
時は13時8分。
――事前に聞いていたより幾分早い入電であり、軽快な着信音に一同はパニックになりました。
サイン本作成真っただ中だった私はうっかり携帯をコートに入れたままそこらへんに放ってしまっておりまして、「あれ? 音はするのに携帯がない!」とおろおろしました。営業さんと編集さんが一斉に周囲を見回し、結局携帯は持ち主よりも先に編集さんによって発掘され、「阿部さんこれ!」と投げるような勢いで渡され、その勢いのまま電話に出ることになったのです。
余談ですが、私はプロデビューが決まった時の電話も、大学の講義中、しかもうっかり宿題を忘れていたことに気付いて筆箱の陰で必死に内職に励んでいる最中に受ける羽目になったというとんちきエピソードがあります。いや、何をやってんでしょうね。12年経ってんのにまるで成長がない……。
とにかく、動揺の中で受賞が伝えられ、現実感がない私に代わって編集さんと営業さんが万歳せんばかりの歓声を上げ、全く事情を知らされていなかった書店員さんも(巻き込んでしまって本当に申し訳ない……!)笑顔で拍手をして下さり、というてんやわんやな一幕となりました。
その後も予定通り挨拶まわりは続行となったわけですが、行く先々であたたかく歓迎をして頂いたり、優しいお言葉をかけて頂いたりする度に、こうした方々の支えによって八咫烏シリーズはここまで来られたんだよなあとしみじみ感じ入りました。
受賞の報せを受けた時こそてんやわんやの有様でしたが、いつもに輪をかけて日頃の支えを実感する、なんとも感慨深い旅となりました。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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