話題の青春部活小説『八秒で跳べ』の著者・坪田侑也さんがV1リーグの試合を生観戦。自身も選手経験のある21歳の若き作家が、バレーボール競技の魅力を考察する――。
深津選手と柳田選手という2人の日本代表が!
僕はバレーボールを観るのが、決して得意ではないと思う。
「やる」のではなく、「観る」のがである。じゃあお前やる方は得意なのかよと問い詰められたら、全然そんなことはないですと小さくなって引き下がるしかないのだけど、それは置いておいて、バレーを観るのは、楽しいとは思っても得意ではないのだ。
観戦に上手いも下手もあるかという向きもあるだろう。しかし僕の考えでは実はあって、観戦が得意でない僕は、バレーボールの試合を2セットくらい観るとぐったりと疲れてしまう。特に、レベルが高くなればなるほど、かつ生で観戦したときほど疲労感がずしりとのしかかってくる。いままでバレーのプロの試合、つまりVリーグの試合を実際に観た2回の経験からそう感じている。自分もコートに入ってプレイしていたみたいにとまで言うとさすがに大袈裟だけど、選手の疲労の数%くらいは受け取っているんじゃないか、そう思えるほどだった。
先日、人生3回目のVリーグ観戦の際も、1セット目中盤でなんだか疲れてきたぞ、と思った。有明コロシアムで開催された、東京グレートベアーズ対日本製鉄堺ブレイザーズの試合である。2月に上梓した拙著『八秒で跳べ』がバレーボールを題材にしている関係で、招待していただいた。
序盤から試合は東京GBのペースで進んでいた。ちなみに僕は東京GBを応援していた。招待していただけたからっていうのももちろんあるけど、実はいままで観戦したことのあるVリーグの試合は今回を含め、すべて東京GBのホームゲームなのだ。そのため、Vリーグには正直なところ全然詳しくないのだけど、東京GBの選手や歴史だけは割と把握している。愛着もある。今季東京GBには、セッターの深津選手とアウトサイドヒッターで大スターの柳田選手という2人の日本代表が加入していて、その日の試合も両選手の活躍でぐんぐん得点を伸ばしていた。
スーパープレイのたびに思わず声を上げて
1セット目中盤、日鉄堺BZのタイムアウト。僕は座席に深く座って、どうして疲れてしまうかを考えてみた。まず僕自身の体調の問題がある。最近花粉症がひどくて、うっすらと始終不調である。この日もポケットティッシュをすでに1袋消費している。
でもやはり、バレーボールの競技性みたいなものもあるんじゃないだろうか。バレーボールには停滞が存在しない。時間稼ぎや様子見みたいな時間がない(少なくとも観客の目には明らかじゃない)。サーブで(それもプロだからもちろん強烈なサーブで)ラリーが始まると、一方は万全の攻撃を組み立てようとし、もう片方は万全の守備でそれを迎え撃つ。ラリーになれば、目まぐるしく攻守が入れ替わる。スーパープレイも連続する。豪快なスパイクがブロックの手を吹き飛ばしたかと思うと、床に落ちる寸前のところでリベロがボールを拾い上げたりする。それをセッターが完璧なトスでスパイカーに送り、一気にピンチがチャンスにひっくり返ったりする。
そんな光景が眼前で繰り広げられるのだ。有明コロシアムを埋め尽くす観客は身を乗り出し、スーパープレイが飛び出すたびに思わず声を上げた。やっとラリーが途切れると、快哉を叫ぶか、頭を抱えて「ああ」と漏らした。
バレーボールは息を詰めて見守るようなスポーツじゃないんだとふと気づく。凄まじいラリーを必死に追って、その中のプレイの一つひとつに声を漏らして、その末の決着は悔しかったり嬉しかったりするけど、それと同時に両チームに拍手を送りたくもなる。そんなラリーを何度も繰り返す。そりゃあ当然疲れるか。観ているだけで心拍数が上がって、へろへろになるか。でもこの「疲労感」こそ、バレーボールを生で観る醍醐味なのかもしれない。
そういえば、今回席が割とコートに近かったから、試合中、ボールがすぐ近くまで飛んできたことがあった。ボールは隣席の友人の腕の中にちょうどすぽりと収まって、彼は驚き、貰っちゃだめなのかなあ、とぼやきながらボールガールに渡した。渡したボールを目で追うと、しばらくして、サーブを打つ東京GBのアラウージョ選手の元に渡った。その大きな手にさっき友人がキャッチしたボールが包まれている。俺が触ったから決まるかもな、なんて友人は笑った。対して僕は、さっきボールをキャッチする直前、友人はチョコレートバーを食べていたから、その脂がボールに付いているんじゃないだろうか、そのせいで手元が狂ってミスしてしまうんじゃないか、ちゃんとボールガールはボールに付着した脂を拭き取っただろうか、と不安になっていた。
アラウージョ選手がサーブのトスを高く上げる。ジャンプして、腕をしならせる。打球はミスになることはなく、しかしエースになることもなく、相手コートに飛び込んでいった。
そして僕たちの期待や不安なんて関係なしに、また長く、白熱したラリーが始まる。
つぼたゆうや/2002年、東京都生まれ。2018年、15歳の時に書いた『探偵はぼっちじゃない』で、第21回ボイルドエッグズ新人賞を史上最年少で受賞、翌年KADOKAWAより出版された。中学、高校時代はバレー部に所属。現在は慶應義塾大学医学部に通う。
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