- 2024.05.10
- 読書オンライン
『元女子高生、パパになる』『ぼくは青くて透明で』――合言葉はHAPPY PRIDE! ジェンダーや性の多様性を考えるためのブックガイド PART1
「本の話」編集部
「本の話」ブックガイド
出典 : #文春オンライン
〈水原一平氏の依存症は治る? 清原さんの「これからは人に依存して生きていく」という言葉の意味は? スポーツ賭博や薬物だけじゃない、いま「依存症」を知るための3冊〉から続く
4月20日~21日にかけて、今年で30周年を迎える東京のプライドフェスティバル&プライドパレード「東京レインボープライド(TRP)」が開催されました。
テーマ「変わるまで、あきらめない。」のもと、のべ27万人が参加し、プライドパレードには1万5000人が参加し、LGBTQ+当事者並びにその支援者(Ally)と共に、「“性”と“生”の多様性」を祝福し、「つながる場」となりました。
「PRIDE」は英語で「誇り」を意味しますが、多くの国で「セクシュアルマイノリティのパレード」や「パレード前後のイベント」を指す言葉として認知されています。セクシュアルマイノリティが差別と迫害に抵抗した最初の出来事として広く知られる1969年6月ニューヨークの「ストーンウォール事件」を記念して、多くの国でプライドパレードが行われる6月は「プライドマンス」と呼ばれています。
TRPが開催される春~初夏、そして6月は、多様な“性”と“生”への誇りを表現し祝福する期間です。この時期に触れておきたい本を「本の話」編集部が10冊セレクト、今回はその前編です。
1 『元女子高生、パパになる』杉山文野
「東京レインボープライド(TRP)」の共同代表を務める杉山文野さんの半生記。女性の体で生まれましたが、男性という性自認を持ち、トランスジェンダーであることを明かして男性として暮らしています。
笑顔でイベント運営や飲食店の経営、LGBTQ+の啓発活動などを行う杉山さんですが、そんな彼にも「30歳になったら死のう」と悩み苦しんだ日々がありました。パートナーの女性との間に子どもを儲け、ゲイの親友とともに三人親で子育てする杉山さんが、迷いながらも力強く前進し、「父」となるまでのノンフィクション。
読んでいくうちに、自分の価値観が揺さぶられていくことが体感できる一冊です。
2 『僕が夫に出会うまで』七崎良輔(文春e-book)
『僕が夫に出会うまで コミック版』七崎良輔原作・つきづきよし漫画
もう一冊、ノンフィクションを。
幼い頃から「普通の男の子じゃない」と言われ、自らの性のあり方に悩み苦しんでいた七崎良輔さん。いじめや中学での初めての恋、高校で好きになった彼の恋人への抑えきれない嫉妬など、どう向き合っていいかわからない思いを抱えながら上京し、友人へのカミングアウトを経て、自らを受け入れていきます。
そして、パートナーとの出会い。婚姻届けの不受理、結婚式ーー。
涙あり笑いあり感動あり、壁にぶつかっても前向きに行動するひとりのゲイの青年の、リアルな青春自伝エッセイです。漫画家つきづきよしさんによるコミカライズ版も評判となりました。世界各国で翻訳出版されている話題作です。
3 『彼岸花が咲く島』李琴峰
小説作品、まず一冊目は、第165回芥川賞を受賞した、李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』です。
記憶を失った少女が島に流れ着き、発見者の少女に助けられながら島で暮らし始めます。そこはノロと呼ばれる女性たちが治め、島民すべてが使用する言葉のほかに、女性だけが使用する言語を持つ島でした。主人公とともに島のしきたりを体験することで、現代の社会のありよう、性、仕事、言語などを俯瞰して見ているような感覚をも味わえます。
不思議な別世界を描いたファンタジーとしても楽しめる作品ですが、島の歴史を紐解くうちに、実は自分がよく知る土地を描いているかのようにも思えてくる、深いあじわいの中編小説です。
4 『ぼくは青くて透明で』窪美澄
こちらは直木賞作家・窪美澄さんによる、ジェンダー、セクシュアリティ、いじめ、家族など、様々なテーマを内包する小説です。
自分自身がセクシュアルマイノリティ(ゲイ)であることを自覚している高校生「海(かい)」が主人公です。海は「母」の美佐子さんと暮らしていますが、二人の血は繋がっていません。海のセクシュアリティを美佐子さんは自然に受け入れますが、それは血が繋がっていないからではないか、と海は思い悩むことにもなります。
海は転校した先で、クラスの委員長・忍と出会い……。自らのセクシュアリティを自覚し悩みながらものびやかに生きる海の姿に、私たちの抱く「常識」が軽やかにほどけていく心地よさを感じるはずです。
運命的に出会ってしまった二人の高校生を通して、「普通ってなんだ?」と問いかける青春小説です。
5 『きみだからさびしい』大前粟生
もう一冊、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が映画化され、現代の若者の繊細な心を描いた作品で知られる大前粟生さんの名作『きみだからさびしい』をご紹介します。
京都の観光ホテルで働いている24歳の町枝圭吾は、恋愛をすることが怖い。自分の男性性が、相手を傷つけてしまうのではないかと思うから。けれど、ある日突然大好きな人に出会ってしまいます。意を決して告白するとその人はこう言いました。
「わたし、ポリアモリーなんだけど、それでもいい?」
ポリアモリーとは、複数のパートナーを持つ恋愛スタイルのこと。大好きな人のその価値観を受け入れようと、主人公が真剣に向き合う姿と恋の切なさと喜びの描写が印象的な、新しい恋愛小説です。
「自分の世界だけが絶対ではない」ことに改めて気付かされる傑作長編。各書評でも大評判となった作品です。
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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