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《10代のときに知っておきたかったお金の話》若きZ世代経営者と元ゴールドマン・サックスの辣腕トレーダーがたどりついた“お金の真実”とは?

《10代のときに知っておきたかったお金の話》若きZ世代経営者と元ゴールドマン・サックスの辣腕トレーダーがたどりついた“お金の真実”とは?

龍崎 翔子,田内 学

龍崎翔子×田内学

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 初著書『クリエイティブジャンプ』が話題のホテルプロデューサー龍崎翔子さんと、『きみのお金は誰のため』がベストセラー躍進中の元ゴールドマン・サックスのトレーダー、社会的金融教育家の田内学さんの初対談が実現。起業、お金、社会の未来について語り合った。

◆◆◆◆

©AFLO

経営者としてめちゃくちゃ刺さった「お金の洞察」

龍崎 今日は、私が大変感銘を受けた本『きみのお金は誰のため』の著者・田内学さんをお招きして、お金と働くことについてじっくり考えていけたらと思います。

田内 はじめまして。お声がけいただき、嬉しく思います。

龍崎 ご著書のメッセージが、いまの社会で働く若者として、会社の経営者としてめちゃくちゃ刺さったんですね。『きみのお金は誰のため』は、謎めいた大富豪のボスが中学生の優斗くんにお金の正体について解き明かしていく物語ですが、お金そのものには価値がなく、その向こう側で働く人がいるからこそ価値が生まれることや、未来への贈与をうながすのがお金の本質だ、という視点がすごく腑に落ちました。

 日々、税金がどうとか、減価償却がどうとか、利回りがどうとかばかりで、そもそもお金って何だろうと考える機会がこれまで多くありましたから。

田内 龍崎さんは東大経済学部で学ばれたんですよね?

龍崎 はい、田内さんの後輩です。会計の授業の一番最初の内容が「のれんの償却」から始まったんですよ。いったい何の話だろう、といきなり置いてけぼりになってしまい、あまり身になりませんでしたね(笑)。

 世の中にある資源をみんなが奪い合うなかで、格差社会を生きる私たちは、どうやって事業を通じて再分配していけるんだろうか? とか考えてきた中で、著書で触れられていた、「みんなの抱える問題を解決し」格差を縮めるサービスの提供によって結果的に大きな富を得た例など、とても現代的で刺激的でした。まさに私が10代の時に知っておきたかった、お金をめぐる洞察が詰まった一冊でした。

龍崎翔子氏(左)と田内学氏(右) 撮影・三宅史郎(文藝春秋)

田内 ありがとうございます。実は『クリエイティブジャンプ』を読んだあと、これはどんな人が書いたのだろう?ってもう一度プロフィールの年齢を確認したんですよ。なんと1996年生まれ。この人はいま何回目の人生なのかなと思ったほど、非常に世の中への観察力があって思慮深い本でした。とにかく自問自答していますよね、前世が禅のお坊さんだったのかなっていうくらいに(笑)。

龍崎 アハハハ……、確かに!

田内 ホテルとは何かとか、無意識を言語化するとか、なかなかそれって実務で実践できることではないし、恐らくホテル経営の中でたくさんの問題にぶつかって、どう解決していくかを徹底的に考え抜いてきた結果だと思いました。

「消費者としての自分」を突き詰めて考えた

龍崎 まさにそうで、「持たざる者」がビジネスの世界で戦っていくためにはどうしたらいいのだろうか、というのが私のスタート地点で、難題だらけでした。とくにホテル業界は大手デベロッパー系や鉄道系など大資本で事業を回しているところが多くありますから、その中で、自分たちの小規模なホテルを選んでもらうにはどうしたらいいかなんて、ググッてもわからない。

龍崎翔子氏

田内 答えがどこかに転がっているわけでなく、考え出さなきゃいけなかったわけですね。

龍崎 はい。答えは自分の中にしかなく、消費者としての自分が答えを知っているはずだと気付いたんです。消費者は無意識にこう考える、行動するというのを突き詰めていったのがクリエイティブジャンプの起点でした。

田内 人口減少社会への転換やSNSの浸透など、時代が大きく変化する潮目にはものすごいチャンスがありますが、社会が複雑化しているときほど、「本質は何か?」に立ち返らなくてはいけないのでしょう。常識というフィルターを取っ払って「本質を探る」大切さを書かれていましたが、そこでふと「プリンに醤油をかける」話を思い出したんですよ。

龍崎 どういうことですか!?

田内 僕が子どもの頃、あるテレビ番組でプリンに醤油をかけたらウニの味になるというのをやっていて、スイーツに醤油なんて非常識ですが、実際やってみると美味しいんですね、本当にウニの味になって(笑)。プリンって少し甘みはあるけど卵由来のタンパク質という本質を突き詰めると醤油もありだ、というクリエイティブジャンプが起きる。ホテルの本質は何かを考え尽くした先に新しいものを生む方法は、どんなことにも応用できるスキルだと感じました。

龍崎 ありがとうございます。よく本質って「唯一解」のようなものに思われやすいですが、本質は多面体で、どこから見るかによって切り取られる本質はまるで異なります。ホテルでいえば「寝る場所」がスタンダードな本質ですが、「人が長い時間過ごすことができる場所」「横になれる場所」「体を洗うこともできる場所」……と無限にあるわけで、一度本質を掘り起こすというプロセスを挟むだけで、視野が一気に広がって、次の一手が見えてくる気がしますね。

なぜ19歳で起業したのか?

田内 ところで今日ちょっとお聞きしたかったのが、東大に入っていきなり19歳で起業しようって、どうしてそういう発想になれたんですか?

田内学氏

龍崎 もともとは8歳のときにアメリカ大陸横断旅行で、ゆく先々で泊まったホテルがあまりにも画一化されていてつまらなくて、自分がこの課題をなんとかしたいという強烈な「渇き」を感じたのが原点にあります。将来はホテル王になるんだ!と早くから決意していたわけですが、いざ目指そうとしたときに、周りからもらったアドバイスはてんでバラバラでした。

 大手ホテル会社で修行するのがいいんじゃないか、コーネル大学のホテル経営学部で勉強したらどうか、それこそうちの父はゴールドマン・サックスのような投資銀行に入って5年間キャッシュをためて、それを元手にホテル業を始めたらいいという考えでした。つまり、ホテル経営への明確なルートは何もなかった。だからまずは自分より視座が高い人が集まる場にいくしかない、と思って選んだのが東大でした。

 大学在学中での起業を決断したのは、数年後にオリンピック開催が決まっていたから、このビッグウェーブにのらない手はない、面白くないホテル業界を変えるのは絶対に自分でありたい、他の人にやられたら悔しすぎると思ったからです。

ゴールドマン・サックス時代の教え「資産運用なんてするな」

田内 その発想がすごいですよ。僕は日本の金融教育の話をよくする中で、投資する側ではなく、「投資される側になる人」こそ増えなくてはならないとずっと訴えてきました。金融教育というと、とかく投資リテラシーの話にばかりなりがちですが、「投資」ってそもそも他力本願的。つまり、投資した先の人が頑張って働いて、その会社がつくり出したモノやサービスが売れて、その利益が配当として返ってくる仕組みなわけです。

©AFLO

 意外に思われるかもしれませんが、僕がゴールドマン・サックス時代に言われたのは「資産運用なんてするな」ということ。「そんなことに時間を使っている暇があるなら、目の前の仕事をしろ。そのほうがちゃんと報われるぞ」と。自分の仕事で価値を生むことが大切だし、自分で新しいビジネスをはじめようという人たちが育たないと社会は発展しない。

 でもこういうことを言うと、そんなの意識が高い一部の人の話ですよという反応がよく返ってくるんですね。

龍崎 私自身、まさに「意識高いね」とよく半笑いされてきました。「女の子は夢を追いかけられていいね」みたいなチクチク言葉を投げかけられつつ。私の学生時代の学内の起業サークルでは、数年後のM&Aを前提に事業を考える人も多くいて、まずエンジェル投資家に投資してもらって、ストックオプションを発行して、どうやって最短でバイアウトするかが正攻法として語られていました。私のように「これを絶対に変えたい」という独善的な願望にもとづいて事業をしている人はすごく少なくて。

龍崎翔子氏

田内 龍崎さんのように自分で起業して社会のために何かをしたいという人の絶対数が少ないのが、今の日本の大きな問題だと思っています。アメリカとか他の諸外国でも起業って普通に当たり前のことなんですよ。

 これは僕自身を振り返っての後悔なのですが、僕は東大にいた頃、プログラミングの研究をしていたんですね。大学対抗のプログラミングコンテストのチームでもけっこう頑張っていたし、在学中からあるベンチャーでシステム開発の仕事もしていた。折しもドットコムバブル期、Googleを創業したスタンフォード大学のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは自分たちで社会にある不便なものを解消しようとしていた。

 そういう挑戦をしてもよかったはずなのに、僕は2003年に大学院を辞めてゴールドマン・サックスに入社したわけで。

龍崎 でもその頃のゴールドマンって今のような大企業ではなくて、もう少しマイナーでチャレンジングなところだったんじゃないですか? 

〈未来への贈与〉となる働き方をサポートするのがお金

田内 少しずつメジャーになりかけていた頃で、外銀とか外資系コンサルと一緒に受けてみよう、みたいな雰囲気でしたね。「自分の得意な数学を使って、世界の人たちと戦いたい」という理由などから僕はその道を選んだわけですが、トレーダーとして資本主義の最前線で16年間どっぷりと浸かった果てに見えてきたのは、お金で大切なのは増やすことではなく、「お金をどこに流してどんな社会を作るか」という本質でした。

 だから僕はいま金融教育家として、その事業に取り組むことによってどう人を幸せにするのか、その商品やサービスでどう社会を発展させようとしているのか、未来への贈与となるような働き方を応援していきたいし、お金はそのサポートなのだということを教育的に浸透させていきたいと思っています。松下幸之助さんの水道哲学じゃないですが、いま社会の中で当たり前のようにいろんなものを使える便利さは、すべて過去からもらった恩恵です。そこに現役世代がどんな新しいものを付与するかで、未来に残していくものが決まりますから。

田内学氏

龍崎 本当にそう思います。私はこの事業を心から愛せるからやっていて、仮に人生二周目があったとしても別のことをしたいとは全く思わない。やっぱり30年後にも同じようにホテルの仕事をやっていたいですね。

 ご著書の中でも書かれていましたが、そもそも世の中にお金がいくらあっても、サービスを提供してくれる人がいなかったら使えませんよね。「お金があること=豊か」ではなく、真の豊かさとはサービスを提供してくれる人がたくさんいる社会であること。多様な事業者がサステナブルに仕事を続けられるのが豊かさの鍵ですよね。

日経平均株価は“自然現象”ではない

田内 本当にそう思います。豊かさというと、GDPがどうとか、キャリア教育とかの話ばかりになりがちですが、龍崎さんのように、多くの子どもたちが、若者が、いろいろな夢をもてることが大切です。もっと挑戦が許される社会になって、そこに適切な投資がなされるべきだとも思います。

 あと常々感じるのが、日経平均株価ってビジネスパーソンの間でもまるで自然現象のように話されるでしょう。お天気のように上がった下がった、来週の予測はどうとか。もちろん複合的な要因はありますが、シンプルに突き詰めれば、日本の企業が元気で業績が上がって、消費が伸びれば日経平均は上がるわけです。

龍崎 自然現象じゃないんだから(笑)、日経平均を引っ張っていくのは自分なんだという気持ちをみんなで持つのがいい。豊かなサービスがあふれる社会を一人ひとりの手でつくっていくんだ、と。私たちの力で日経平均、爆上がりさせてやりたいっすね!

田内 そんなマインドの仕事こそが未来への贈与を生みますね。『クリエイティブジャンプ』を読んだら、自分でも果敢に挑戦してみたくなる人が増えますよ(笑)。

龍崎 今日はとても刺激的なお話をありがとうございました!

田内 こちらこそありがとうございました!

(誠品生活日本橋にて)

『クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術』(龍崎翔子 著)
『きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(田内学 著)

龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)
1996年生まれ。ホテルプロデューサー、株式会社水星代表取締役CEO。東京大学経済学部卒。2015年、在学中に株式会社L&Gグローバルビジネス(現・水星)を設立し、北海道・富良野でペンション運営を開始。その後、関西を中心に、ブティックホテル「HOTEL SHE,」シリーズを展開し、湯河原、層雲峡をはじめ全国各地で宿泊施設の開発・経営を手がける。クリエイティブディレクションから運営まで手掛ける金沢のスモールラグジュアリーホテル『香林居』がGOOD DESIGN賞を受賞。ホテル予約プラットフォーム『CHILLNN』や産後ケアリゾート『HOTEL CAFUNE』など、従来の観光業の枠組みを超え、〈ホテル×クリエイティブ×テック〉の領域を横断し、独自の事業を展開する。

田内学(たうち・まなぶ)
1978年生まれ。社会的金融教育家、元ゴールドマン・サックス金利トレーダー。2001年東京大学工学部卒。同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングを経て2019年に退職。著書に『お金のむこうに人がいる』など。最新刊『きみのお金は誰のため』で「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリ及びリベラルアーツ部門第1位を受賞。

単行本
クリエイティブジャンプ
世界を3ミリ面白くする仕事術
龍崎翔子

定価:1,760円(税込)発売日:2024年03月13日

電子書籍
クリエイティブジャンプ
世界を3ミリ面白くする仕事術
龍崎翔子

発売日:2024年03月13日

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