記憶とか思い出とか、そういうものはいつのまにか欠けたり忘れたりする。そういう失くしてしまったモノたちを一緒に過ごした誰かが補ってくれたら思い出たちはまた生き返ってくる。忘れてしまったら埋め合えばいい。そういう仲間がいればいい。
20年続く読書会。メンバーは78歳から92歳。月に一度集まって一冊の本を朗読し合い感想を語り合う。お菓子を食べながら思い思いに語り合う。というか、勝手にしゃべりたおす。こりゃ、まとめるのが大変だ……連絡事項は聞いちゃいない。聞いてても忘れちゃう。でも、ちゃんと月に一度集まって、朗読し合って、語り合えちゃうのって、すごくない? なんだろうね、このパワー。物語の持つチカラ。それを読み解き分かち合い重ね合う気持ちよさ。
こんな風に一緒に時間を重ね合える仲間がいるってものすごく贅沢なこと。この時間のかけがえのなさは、彼らがともに歳を重ねていったから。そして楽しい時間も彼らの未来もそうそう長くはない、という現実。メンバーひとりひとりに人生の記録がある。その20年の一部分を共有し合うだけだったとしても、彼らにとっては宝物のような時間なのだ。いつかいなくなるだろう仲間たち。そういう現実も描きつつ、それでもなお物語をよんでかたる楽しみを、その大切さをぎゅっと心の奥までしぼりこまれた気がする。
20年前は58歳から72歳の集まりだった彼ら。そこから月に一度の時間を、思い出を重ね合ってきた尊さ。読書会の会場は小樽にある喫茶シトロン。雇われ店長は28歳。自称小説家。2冊目が出せないままの彼が読書会の世話役になってからの変化。そしてここへ乱入してきた小樽文学館の井上さん。この二人の若者がとてもとてもいい。井上さんの爆速自虐口上を生で聞いてみたい。
20周年記念の読書会の本が『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる著)っていうのがまたいい。これは、私が小学生の時大好きだった一冊。コロボックルに会いたくて、小さな国に行きたくて、大人になってからだけど、北海道までコロボックルを探しに行ったのだ。でも今回彼らと一緒に物語をなぞっていてそういう話だったのか! と正直驚いている。小学生だった自分には読み取れなかった世界が大きく広がっていた。よむよむかたるの世界で私もメンバーの1人になっていたのだ。そうか、読書会ってこういう場所なんだ、と。
読書というパーソナルな楽しみを、仲間と共有する楽しみに変えてくれる読書会。
思い出を、記憶を分かち合える仲間と読書会をしたい、心底そう思う。
ひさだかおり/精文館書店中島新町店勤務。「本屋が選ぶ時代小説大賞」選考委員、「WEB本の雑誌」や文芸誌書評、文庫解説などでも活躍中。
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