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「まるで鋭い凶器に何度も切りつけられるような感覚」「心の内は今も震えている」塩田武士さん最新刊『踊りつかれて』に圧倒された書店員による感想2万2000字を一挙大公開!

「まるで鋭い凶器に何度も切りつけられるような感覚」「心の内は今も震えている」塩田武士さん最新刊『踊りつかれて』に圧倒された書店員による感想2万2000字を一挙大公開!

『踊りつかれて』(塩田 武士)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

まだまだまだ続きます!

46 明文堂書店TSUTAYA戸田 坂本まさみさん

塩田さんの作品を読んでいるといつも、心情や行動の緻密な描写による臨場感で、
あたかもドキュメンタリーを観ているような気持ちになります。
今回もまた、先の読めない展開にハラハラし、人物それぞれの心情に共感して憤り、涙を浮かべ、恐怖に怯え、この物語を目の前で見ている様な体験をしました。
まず入りの「宣戦布告」からがっつり心を掴まれ、
今の『誰もが発信する』社会に対して自分が抱える薄ら寒い怯えを自覚し、
犯人像が分かるにつれどんどんのめり込んでいきました。
犯人の起こした行動は私怨と言う事もできますが、SNSの危うさや、自分の行いの責任の軽視、無自覚の悪意など私たちがここから考えなければならない事はたくさんあると感じました。
たくさんの人に読んで欲しい。そして考えて欲しいと思う作品でした。

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47 未来屋書店名取店 高橋あづささん

いろんなことができるようになった目の前の小さな箱を手に、
私に委ねられた責任の重さを深く考えさせられた。
他人を貶めるような発信はしていないつもりだが、受け止められ方は様々だ。
こんなんじゃ何も言えなくなるなと思ってしまうが、一旦ブレーキを掛けて考えるのが大事なんだな。私たちは何も許されておらず、ただ発信することが出来るようになっただけ。そのことを肝に銘じておこうと改めて思った。
塩田作品は犯罪が絡む重厚な作品が多いけれど、人物描写にめちゃくちゃ愛を感じます。罪を憎んで人を憎まずみたいな。今作品も、何の弁護も出来ない悪人が多数いますが、登場人物はみな生き生きと語ってくれていて、とても魅力にあふれていました。大変面白く読ませていただきました。
以前から思っていましたが、塩田さん大好きです。塩田さんの作品も大好きです。

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48 紀伊國屋書店相模女子大学ブックセンター 藤井亜希さん

序章の、軽い文章で語られる熱い内容から一気に惹きつけられました。
たとえば、学校とか職場とかご近所とか、狭い世界ですら、
他人が自分をどう見ているとか、どう言われているとか気になる人が多いだろう中、
日本中いや、もしかしたら世界中から、それも自分の知らない人達からマイナスの言葉を投げかけられることの精神的ダメージはいかほどか……。

正論が、よく叫ばれている問題がただ描かれているだけではなく、
登場人物達の心境を、現在の状況を、そして過去を丁寧に描くことで、
画面の向こうにいる誰かも、自分と同じ笑い、泣き、悩み、苦しむ人間なのだと、
よく知りもしない赤の他人が、無分別なつぶやきで傷つけていいわけがないのだと痛感させられました。
自分自身はネットに疎い人間ですが、それでも関係ないと言い切れない怖さと、逆に人の温かさに安心する、感じることの多い作品でした。

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49 ジュンク堂書店福岡店 吉田京介さん

昔は芸能界や世間の闇を自らが発信する術がなく、泣き寝入りしてきたことも多くあったことだろうと思う。現代はそのような闇を個人が発信することも、反論することもできるようになった。さらには他者がその闇を見つけ告発することもできるようになった。
しかし、いわば監視の目がいざ自分に向けば逃げ場はどこにもなく、永遠に解放されることはないという側面も持っている。昔は記者につきまとまわれただろうが、今は全国民が記者になりうる。そしてスクープの対象は芸能界や公人だけに留まらず全国民である。さらに、その記事はデータ上に永遠に残る。
これらを生み出すものは今も昔も変わらぬ、正義を執行する快感、人の不幸を見たいという人間の性にある。
人間の恐ろしさが見られる作品だと思った。
想像力を働かせることの重要性、常識や大衆心理の可能性、権利と責任の関係性をいま一度、理解しなければならないと思った。

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50 紀伊國屋書店京橋店 坂上麻季さん

SNSによる誹謗中傷、フェイクニュース、今ではもう見飽きるくらい毎日目にするものになってしまいました。
この作品を読んでいる間にも、実際に不倫騒動によるバッシングが盛り上がって、過去の動画が非常識だと拡散されていました。
天童と美月がSNSや報道によって壊されていく過程は、現実に何度もみてきたことで、自分が攻撃的な発信をすることはないとしても、きっと流れてきた投稿にショックを受けて2人を見る目が変わってしまうであろうことは容易に想像がつきました。
今の世の中、SNS上で加害者になることも、被害者になることも、もうどちらもひとごととは思えない。
一般人である私でさえ、常にその舞台に引き上げられる不安を感じていたことを改めて実感しています。
どうすればSNSを適切に使えるのか。
SNSに踊らされる私たちに投げかけられた問い。
このあり方を変えられるのか、希望を持つのは難しいけれど、最後に生身のつながりによって救われたことが強く心に残りました。

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51 ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん

いじめはだめだと言っている人、家族でもなく、当事者でもなく、
全く関係ない人が、真偽も確かめず、人を誹謗中傷する情報に、
匿名でSNSで、汚い言葉で、制裁という名のもと、批判に加担し、
それが増幅していく。
そんな人を誹謗中傷する権利なんて絶対ない。重大な罪を犯している。
情報の波に踊らされて、自分の日々のいらいらを発散させているだけなのだ。
それが山と積もり当事者を絶望へと追い込んでいく。
SNSであなたが加害者になるまえに、一度立ち止まって考えよう。
各々の人の生きた道は目に見えない、言葉で現れていない奥深い何かがある。
何も知らない人間が人を語ってはいけない。
SNSで情報が氾濫している社会への警鐘を鳴らし、人間への愛しい思いが、厳しくも温かい眼差しで語られていた傑作に心が震えた。
自分を戒めた。今私たちが知らなければならないことが思いを込めて綴られていた。
踊らされたくない。踊りたい。
人を語る時、確実な事実を知り、思いを込めて、心あることを語りたい。

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52 丸善ヒルズウォーク徳重店 熊谷由佳さん

かつて「正義」は絶対的なものであったけれど、好き勝手なSNSの言葉で溢れかえる現在、とてもお手軽なものとなってしまったと思う。安全な場所から振りかざされた小さな正義のナイフは、悪意と共に増殖し無数の刃となる。もしも自分がその餌食となったら、そして大切な人が巻き込まれたら。想像するだけで恐ろしい。この小説がフィクションとは思えない。SNSにどっぷり浸かって生活をしている自分も、いつでもその危険と隣り合わせに生きているという実感がある。というよりもはや誰も他人事ではない。
だから、瀬尾のやったことに対してはとても共感する。手段は間違っていたかもしれないが他に何ができただろうか。言葉の刃は無限に自由自在に飛んで来るのに、心を守ってくれる無敵の盾はどこにもない。抑止力は絶対に必要だと、この作品を読んで強く思う。
そして、残酷で悲しい物語だったからこそ、奏のまっすぐな心の美しさと、ラストシーンがずっと心の中に残り続けている。素晴らしい作品でした。

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53 未来屋書店大日店 石坂華月さん

誰もが全世界に向けて好き勝手に発信できる時代。
ふと目に入った投稿は、心落ち着かなくなる言葉の応酬が果てしもなく続く。
切り取られた情報を鵜呑みにし、自分のことを棚に上げて正義感を振りかざす
者たち、一体彼等はなぜそこまで人を追い詰めてしまうのだろうか。

SNSで誹謗中傷にあった者の死と社会的抹殺、それに報復するかのようなセンセーショナルな弾劾の始まりに力が入る。
世間を騒がせ逮捕された者、彼を弁護することになった者、人が人に魅せられる素晴らしさと、陥れようとする闇深さ、枝葉のように広がっていく繋がりに絡みつく動機が押し寄せる。
それぞれの来し方、苦しく切ない心情に最後の最後まで惹き込まれてしまった。
こんなにも過去を抱きしめてやりたいと思ったことがあるだろうか。
今や当たり前のツールとなったSNSの罪と罰とは。
私たちは、安易に言葉を放つ前に立ち止まり、その先を想像しなければならない。
言葉の持つ重要性をこんなにも感じた物語はない。
ひとりひとりに委ねられたと感じた。

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54 蔦屋書店熊本三年坂店 迫彩子さん

非常に重い作品でした。「いつか」来るネットリテラシーの高い社会への過渡期として「あのとき」どんな社会だったのかを表す作品となれるのか、そんな未来が本当に来ると信じて良いのか……とても考えることの多い作品です。
誹謗中傷を日常とする人には届かなくても(瀬尾の宣戦布告後も世の中は変わらない)この本という一滴が、私や誰かの一滴となって次の加害者が生み出されてしまうことへの抑止力になると願わずにはおれません。(そう願って店頭で販売します)
世の中の社会の誰かでなく、目の前の大切な二人のために自分ごとで行動した瀬尾だからこそ奏たちを動かすエネルギーがあって、そのエネルギーが読者を引っ張っていってくれます。論文・論考ではなく、物語であったことに意味があると感じました。
なぜ、どうして誹謗中傷をしてしまうのかと思える自分は周りや環境に恵まれているのだと思います。だからこそ「安全圏のスナイパー」という言葉は忘れられないものになりました。胸に刻みます。

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55 ジュンク堂書店芦屋店 山ノ井さよりさん

小説は時に世の中を大きく揺さぶりフィクションの枠を越えることがある。『踊りつかれて』は世に問うている。警鈴を鳴らし、無数の言葉の刃に立ち向かうところから物語が始まる。
この小説に起承転結があるとしたら、「転」の部分のなんと肉厚でかけがえのない人生が展開されることか。それはハッピーエンドではない。2本分の映画を観た後のごとく、心に重しがのしかかる。
それでも人が心を浄化させるのは人の表現力にほかならない。音楽や演技や笑いによって人はひとときの安らぎを得る。『表現の自由』はそう使われるべきなのだ。
ネット空間で考えなく吐き出す無数の悪意が「この世に影響を与えすぎている」と著者は表現する。影響を受け続けて普通でいられるはずがないのだ。
著者はさまざまな角度から読み手に訴えかける。
こんな風潮が当たり前でいいはずがないと思い知らされた。毎日の炎上騒ぎに私は感覚が麻痺していたのだ。
読了後こそ始まりの物語なのかもしれない。常に考えるべき課題を与えられたのだと思う。

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56 紀伊國屋書店京都産業大学ブックセンター 宮江かほりさん

過去の週刊誌報道をきっかけに表舞台を去った奥田美月。SNS炎上により死に追い込まれた天童ショージ。なぜ2人はこれほどまで追い込まれなければならなかったのか。自分は安全な所に立ったまま、2人を追い込んだ83人の個人情報が「枯葉」を名乗る人物によって晒された――。
この話を「自分には全く関係ない! まったく困ったもんだよね、独りよがりの正義感から私刑を行っていく奴らは……」としたり顔に語る人こそ危ないかもしれない。私自身、SNSの書き込みこそしないものの、「人を傷つけない笑いっていい」と思っていたし、テレビに出ている人の発言を聞いて「これって今の世の中アウトなんじゃないの?」と感じる時、無意識に自分は「正しい側にいる人間です」と思い込んでいる。
私にも83人の安全圏のスナイパーになる危うさがあるのだ。
SNSがその匿名性による無法地帯から変わるには、個人の想像力や良心で変えていくのは難しく、法の整備を進めるしかないのだろうか。この物語が人々の心に波紋を起こしてくれたらいい。

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57 紀伊國屋書店名古屋空港店 山崎蓮代さん

TVを観る時間は無くてもSNSを延々と眺める時間はあるという人は多いのではないだろうか。私自身がそうだからだ。
自分が好きな興味のある、関心のある情報が優先的に現れる中、誰だか分からない人物の言葉も挟まれている。普段は気にも止めない言葉、発言でもそれがいくつも何度も現れれば目にしない訳にはいかず。楽しいもの嬉しいものであれば読み流せるがそうではないものもある事が厄介だ。大抵の場合。心に浮かんだその感情は自分の中で処理されているだろう、ひとり口の端にのぼることはあるにしても。
でも。なかには感情のおもむくままに、ストレス発散や冷やかし半分のコメントを書き散らしていく人物もいるようだ。1つでも辛い言葉の矢が幾重にも際限なく飛び交う世界。終わりの見えない闇。

本当に恐ろしいと思った。
顔の見えない相手にひたすら殴り続けられる恐怖と削られていくばかりの心。
こんな世界に自分は生きているのか。
塩田さんの作品は日常に潜む闇をまざまざと見せつける。闇の深さに息苦しさを感じる。
それでも光があるのだと最後には教えてくれる。その一筋の儚い光源を求めて読み続けていける。

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58 ふたば書房京都駅八条口店 宮田修さん

物語の全てが凝縮された圧巻のラストシーン。
そこには、人と人の縁が大切なことだと言うことをあらためて教えてくれる。

人はなぜここまで人の痛みに無関心になれるのだろうか?
昭和の歌手と、令和の芸人。
1人は週刊誌に、1人はSNSからの発端により、人生が未来が壊されていく。

彼が取った行動は、賛否両論あるだろう。
SNSで誹謗中傷した人の個人情報を晒す。色々理由はあるにせよ実名ではなく
匿名での攻撃。したことさえも、すぐに忘れて次の情報に移行する。
それが、悲劇の引き金になるかもと想像すらせずに。

昭和では、芸能人というだけで盛り上がるからと、プライベートを監視され
面白いからと切り抜きされ活字になり、放送される。

あれから何も変わっていないのかもしれない。
私達は、もっと想像力を鍛えなくてはいけない。
なぜその二人に対しての抗議だったのかは、
弁護士の調査過程で浮かび上がる彼の半生。
そして、遂にミッシングリンクを見つける。

歌手と彼、芸人と彼女。
二人の関係性が、時代を超えてオーバーラップする。
彼の弁護に彼女は必然だったのか。

愛情を超える、人の縁、人の絆が、心を揺さぶる。

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59 未来屋書店上尾店 石母田真貴さん

今のメディア・SNSの社会に風穴を開ける! 言葉の重みを知らされる。

ある有名人に対し誹謗中傷をした83名の個人情報が世間に晒された。その有名人の1人である女性歌手は記者に執拗に追いかけ回され、噂をでっち上げられ活動できない状態に追い込まれた。もう1人の男性お笑い芸人はSNSでの罵詈雑言に耐えかねて自らの命を絶ってしまう。
追い詰めた側と追い詰められた側の生活も崩壊し、その事件の犯人の男は捕まった。彼は弁護人としてある女性弁護士を指名する。あまり多くを語らない男の背景を知るため彼女は地道に動き始める。

塩田武士さんの作品は寝食忘れるくらいどっぷりと引き込まれてしまうので、
今回も覚悟した。
冒頭のネット民への反論の投稿内容。言葉選びが秀逸で早々に衝撃を食らう。そして考えさせられる。悲劇を何度も繰り返してやっと少しずつ軌道修正されて。大衆の大波に呑まれても声を上げ続ける事が大切だと。近い将来にこの時代はインターネット暗黒期だったと嘲笑される日がやって来る。今だって昔のメディアに眉をひそめているのだから。
学校で子どもたちに向けてSNS講座を何度も開くより、この本一冊読めばいいのにな。

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60 ジュンク堂書店名古屋栄店 西田有里さん

不倫報道からの炎上、SNSでの誹謗中傷を苦に芸人・天童ショージが自殺した。
週刊誌であることないこと叩かれた歌姫・奥田美月の失踪。
二人の芸能人を自殺や失踪に追い込んだSNS、週刊誌などの発信者八十三人の個人情報をブログにアップした。
ブログの筆者・枯葉こと瀬尾は、名誉毀損で逮捕された。弁護することになった久代は多くを語らない瀬尾のかわりに情状証人になってくれそうな瀬尾の知人を訪ね、彼の人生をたどる。二人の有名人と瀬尾との関係とは……

最後のシーンはズルイ!!
感動に震えました。どんなに耐えられない苦難であっても生きてさえいれば、信じられないような美しい景色に出会える、再会することなどないと諦めていた人にだって会えるのだ。
運命のように何度も何度も美月と再会しながら、美月の才能を愛して支えた男の人生の物語を追っていたからこそ、このラストシーンが一際輝いて見えました。

匿名性の高いSNS時代の正しさは個人の采配に委ねられており、炎上に便乗して正義の名のもとに隙あらば誹謗中傷のために群がる悪意。
瀬尾の行動は現代版仕置人のようで、当事者でなければ痛快。
法の整備が追いついていないのが、悪意の増殖に拍車をかけているのでは、と私も思えました。
大切な人を傷つけるものから守りたい。
瀬尾の一途さ、包み込むような優しさにぐっときました。
とても面白かったです!!

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単行本
踊りつかれて
塩田武士

定価:2,420円(税込)発売日:2025年05月27日

電子書籍
踊りつかれて
塩田武士

発売日:2025年05月27日

プレゼント
  • 『いけないII』道尾秀介・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2025/06/04~2025/06/11
    賞品 『いけないII』道尾秀介・著 5名様

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