
- 2025.06.06
- 特集
「まるで鋭い凶器に何度も切りつけられるような感覚」「心の内は今も震えている」塩田武士さん最新刊『踊りつかれて』に圧倒された書店員による感想2万2000字を一挙大公開!
『踊りつかれて』(塩田 武士)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
あと少し……!
61 平安堂新長野店 清水末子さん
SNSをやらない私にはこの作品を本当に理解できるのか不安もあった。
しかしこの小説で問われているのは「人間」。
心の内側にある悪意や承認欲求という誰にでもある感情がネットという道具を持った時に暴走を始める。事実から離れ、数が増え、刃は鋭くなる。命までも奪う。
追い詰められる側の恐怖、絶望感がひしひしと伝わってきた。
ネットは見ているだけだから関係ないと思わずに言葉が凶器となっていく様子、
その言葉を投げつける人間の醜さを感じて欲しい。
書き込んだ人間を公表したことで、訴えられ被告人となった瀬尾が法廷で語る言葉が胸に刺さった。命を絶った人間とその家族の苦しさ、悔しさを社会全体に知って欲しい。今後の悲劇を生まないためには「ブレーキ」が必要という思い。SNS事業者への法規制等もあるが、何より必要なのは私たちが「考え続ける」ことだろう。
コスパがもてはやされる時代に、時間をかける、心に留めておくというのは敬遠されるのだろう。しかし情報に触れた時、これは事実なのか、これを言ったらどうなるかを想像する、考える作業を私たちは手離してはいけないと思う。
後半では過去にマスコミ報道で消えていった歌手、奥田美月の半生をたどる。自殺してしまった天童も愛する家族がいて、生きてきた時間がある。そして未来もあった。美月や天童と瀬尾のつながりに胸が熱くなる。そしてネットの実体の無さとは反対に確かな人間の存在を感じた。だからこそそれを奪う権利は誰にもないのだと強く感じた。最後の「生きてこそ」の言葉と聞こえてくる音楽、とても美しい場面だった。
62 ジュンク堂書店旭川店 松村智子さん
「枯れ葉」が現代社会に突きつけ、問いかけたものは鋭くそして重い。
例えその動機が瀬尾の個人的な思いから端を発したものであったとしても。
自分自身、「枯れ葉」に晒された者の炎上の様子を「ざまぁ」と思ったことを否定できません。その時点で自分も彼らと何ら変わらないと今更ながらはっとします。
それでも私達のネットに対する意識は変わっていかなければならない、ネットに自由に誹謗中傷を公開できる時代は終わらせなければならないと強く感じました。
週刊文春で連載を追っていました。奏は天童ショージ関係の名誉毀損訴訟の瀬尾の弁護人であったのに、どんどん奥田美月を深堀りしていって、終いには美月の実家乗っ取られの過去まで掘り起こして、自分の胸の内を何も語らない瀬尾を知るためとはいえ、何だかズレていっているなぁと思っていましたが、終盤で「ここで繋がるのか!」とようやく納得した覚えがあります。連載が長かったので、奏が弁護士を辞めようと思っていたこともすっかり忘れていて、今回プルーフで所々読み直しができて良かったです。音楽が聴こえる塩田さんのラストは大好きです。
長年週刊文春を愛読している自分は、週刊誌報道には一定の意義があると思っています。ネットで言う「マスゴミ」が社会を動かしたことだってあるのですから。
そしてこの作品が週刊文春に掲載された意味を読み手は問われているのではと思いました。
63 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
言葉が、いかに強靭な暴力になるのか。
人の日常を荒廃させ、新しい明日を奪ってしまうのか。
本作を、通して深く痛感しました。
また、誰なのか分からない悪意ほど、怖いものはない。
読み進めるたびに、まるで鋭い凶器に、
何度も切りつけられるような衝撃が、止まりませんでした。
表現の自由や、個人情報の重要さを謳いながらも、
悪しき言葉に、責任が伴わないSNS社会。
ネットが発達し、指先で、簡単に人の命を奪ってしまう現代。
見なければいいという事では、済まされない時代。
一度、投下された言葉の爆弾は、見えない余波の風に乗り、風評被害を広げていく。
事実が、どんどん歪んでいく様子に、胸に怒りと哀しみの嵐が巻き起こりました。
「あなたは、断罪されると分かっていたら、誰かの未来を奪う言葉を放てますか?」
そんな、切実なメッセージを感じました。
社会にあふれる、名前のない罪に、メスを入れるような警告の社会派小説。
また、言葉と生命の重みを問い、人間の尊厳について考えさせられる、
現代メディアを顧みる物語。
虚構の事実に踊り、踊らされ、辿り着いた最終地点に、熱い涙が滲みました。
本作は、決して他人事ではない物語。
誰しも、人を追い詰める言葉を、胸に秘めているのかもしれない。
そして、無意識に言葉の刃で、相手を傷つけている可能性がある。
そんな、自身の言葉について、振り返る事の大切さを、教えていただきました。
人を貶める言葉よりも、人が活きる言葉を。
人を闇に突き落とす言葉よりも、人を輝かせ救う言葉を。
読み終えた後、言葉について真剣に向き合う、多くの問いがあふれました。
本作は、現代に必要不可欠な、未来を照らす物語だと思います。
64 精文館書店豊明店 近藤綾子さん
なんと言っても、この小説が週刊文春で連載されていたこと、そして、発売されることに、驚きましたが、読めば、それだけの覚悟と自信があることが分かりました。
登場人物の瀬尾が、SNSに溢れる言葉の暴力を止める為に(自分が愛する人達のためからの私怨がキッカケとしても、やり方が間違っているかもしれないが)、一石を投じたように、この小説も、瀬尾と同じように、一石……いや、それ以上のストッパーになって欲しいと願いたいです。
「ペンは剣よりも強し」と昔からある言葉ですが、昔は良い意味合いが強かったと思います。しかし、現在は、力、暴力以上に、凶悪で、残忍で、人の命まで奪うようになりました。
ネットであること、匿名であるという安全地帯から、一方的な思い込みからくる間違った正義感からの言葉の攻撃。簡単に誰でも出来ることで、気が緩んでしまったのか、人は、何か大事なものを忘れてしまったのではないか。今、もう一度、立ち止まり、世の中を、そして、我が身を振り返るべきであると、強いメッセージを感じました。
さすが、社会派作家の塩田先生。そして、それだけで終わらないのが、塩田先生。主人公の奏や、瀬尾や天童、美月のバックボーンを辿る旅のドラマティックなこと。これぞ、真骨頂!
そして、タイトルの意味に込められたものが分かった時、鳥肌が立ちました!
そうそう、ピアノを弾きたくなりました(笑)映画『追憶』も観たくなったし……。YouTubeで、ピアノ曲やら、歌やらたくさん聴くことになりました!
宣戦布告! 自分には関係ないと思っていないか? 被害者にも、そして、加害者にもなるかもしれないことを。
他人事だと思っていると痛い目に遭うから、肝に銘じておけ!
だから、この小説を読むのだ。読む前と読む後では世界が変わっているはずだ。
さあ、小説『踊りつかれて』を楽しむのだ。
65 精文館書店中島新町店 久田かおりさん
「言葉は人の身体ではなく精神を傷つける唯一の凶器」であり「想像力の欠けた言葉は銃弾に等しい」そう、言葉は人をたやすく傷つけ、殺すのだ。
匿名という壁に守られた言葉を手に入れた人間が、正義を振りかざして「悪」とみなされた人をたたき続ける。
一般人であってもそうなのだ、それが「芸能人」であればなおさら情け容赦なく言葉でもって悪意という暴力を投げつける。
そして当人が耐えきれずに死を選んだとき、だれもが自分を正当化しあるいは言葉を消して逃げる。
誰が彼を殺したのか。
ひとりの芸人が不倫をすっぱ抜かれ、それに対するネットでの罵詈雑言、家族への攻撃に耐えきれず死を選んだ。
かつて桁違いの実力を持つアイドルとして一世を風靡した女性が捏造された記事によって業界を去った。
二人とつながりを持つ音楽P瀬尾が彼らに対して攻撃をしていた83人の個人情報の全てをばらまいた。
名誉棄損で訴えられた音楽Pと、彼の弁護を引き受けたイソ弁久代奏。裁判で戦おうとしない瀬尾に対して、奏は丁寧に彼と二人の関係をたどっていく。
なぜ瀬尾は自分の人生を捨ててまで二人の仇を取ろうとしたのか。
マスコミが、SNSが集め、作り、垂れ流す「情報」に翻弄される現代。
何が真実で、なにが嘘なのか。いや、本当かどうかなんてもはやどうでもいい。
ただ、注目を浴びれば、そしてそれで自分のうっぷんが晴らせればそれでいいのだ。
目に入った話題を機械的に拡散していく。だって、この人が悪いことをしたんだから、罰を与えるのは正しい事でしょ。
何気なく、悪気もなく、深く考えずに放り投げる言葉の刃。面と向かっては言えない言葉も、文字にして匿名で守られればいくらでも投下できる。
いつから始まったのだろう、この危うい世界は。
いつでもどこでも誰でも情報を流せるいま、私たちは立ち止まって考えるべき時に来ているのではないか。
おのれの投げる言葉が、どれほどの鋭さでどれほどの重さでどれほどの傷を与えるのか、ということを。
いま、が、その際なのだろう。
66 紀伊國屋書店久留米店 池尻真由美さん
400ページ超えの大作だが、体感としてはあっという間で、
のめり込んで一気読みだった。
画面を押せばあらゆる情報を得られる現代。誰もが安易に情報を発信でき、その情報は拡散され、見知らぬ人々と共有出来てしまう。真偽が定かでなくても簡単に受け入れてしまう。ネット社会がここまで広がって、自分もその渦に巻き込まれる可能性は充分にある。
発信された情報が踏み越えてはいけない一線を超えると、時として凶器となる。人生を切り刻み、命まで奪ってしまう。だんだんと紐解かれていく真実に胸が詰まる。それぞれの人生が何層にも重なり合っていた。登場人物たちの心模様が胸に迫ってきて、涙なしでは読み進めることが出来なかった。独白は言葉を失い、たまらず、涙腺が崩壊した。ラストは鳥肌が立つほどの感動が一気に押し寄せた。目を瞑るとその光景が浮かんでくるようだった。生身の人と人とのつながりの尊さに気づかされ、あたたかな涙が流れた。心の内は今も震えている。
読後、言葉にならない様々な感情が去来した。この作品はフィクションだが、恐ろしいほどのリアルだ。実際、現実にもう起きていることだ。胸の奥が鈍く痛み、息が出来なくなるほど苦しくなった。
タイトルを今一度噛み締めた。
真実が歪められた世界に踊らされてはならないと強く思う。あふれる情報に翻弄されず、自分で考え、真実を見極める目を持つことはとても大切だ。難しいことかもしれないが、冷静さと節度を持って、意識的に情報に触れていかなければならないと痛感する。今まで通りではなく、考えることを放棄せず、真摯に向き合っていかなければならない。
塩田先生だからこそ描ける物語に、心が打ち震えた。
この作品は警鐘の書だ! これほどまでに心に訴えかけてくる物語はそうは無い。
質感なき時代、今、まさに読まれるべき物語。
正義感に裏打ちされた情報社会の在り方に一石を投じる渾身の一冊。著者の深い悲しみと強い祈りを感じた。
多くの方に届けたい。そして感想を語り合いたい気持ちでいっぱいだ。
ずっしりと心に重く響く、本当に素晴らしい作品でした!
67 谷島屋ららぽーと沼津店 小川誠一さん
本書はなんとも薄っぺらなプロローグから始まった。塩田作品のファンとしては、正直なところ少し肩透かしを食らった気分で読み進めていたが、「もう限界かもしれない」と感じたそのとき、第一章が始まった。
――実は、ここからが本番だったのだ。
読み進めるうちに、私はハッと気づかされた。「ああ、このプロローグこそが、現代のネット社会そのものだったのか」と。
「あなたは、これをどう感じる?どう考える?そして、どう行動するのか?」
まるで、塩田先生にそう問いかけられているような気がした。その思いを胸に、私は最後のページまで読まずにはいられなかった。やはり、このプロローグがあったからこそ、本書のすべてが活きてくる。
今の時代、誰もがネット社会の“テロリスト”になる、あるいは“なってしまう”可能性を秘めている。情報のスピードが速すぎて、立ち止まることすらできない。そして、被害者と加害者の立場は一瞬で入れ替わる──その怖さが、本書では克明に描かれていた。
ある日突然突きつけられたナイフが、実は自分のナイフだった──そんな恐ろしさを噛みしめながらも、ページをめくる手は止まらず、目は活字を追い続けていた。
ただ正直に言えば、私が心を強く惹かれたのは、「ネットや活字の罪と罰」というテーマそのものよりも、登場人物たちの人生だった。
特に、物語の伏線ともなる美月の幼少期の凄惨な体験が胸を突く。彼女の繊細さや愛に対する敏感さの理由が、そのエピソードからしっかりと伝わってくる。
登場人物たちは皆、それぞれの運命に導かれるように出会い、別れ、再び巡り合う。その流れがごく自然に丁寧に描かれており、これこそが塩田先生の真骨頂だと感じた。2023年に出版された傑作『存在のすべてを』にも同じ魅力があった。
物語の核心にたどり着くまでの道のりを、じれったく感じる読者もいるかもしれない。だが、彼ら一人ひとりの背景を丁寧に描いているからこそ、結末に深い意味が生まれるのだと思う。蛇足だが、奥田美月がステージでリアルに歌っているシーンが浮かんでくる描写はすごい。
悲しい物語ではあったが、最後には確かに「救い」があった。そのことに、私は心から感謝したい。
68 紀伊國屋書店仙台店 齊藤一弥さん
瀬尾氏の動機の根幹にある誹謗中傷被害者達との関係性が分かるにつれて作品の真価がドンドン高まっていきました。
正直、奥田美月とのエピソードの深さに比べ、天童ショージとの関わりは若干薄いように感じていたのですが奥田──天童が繋がった時に、それはまさしく瀬尾氏の人生と重なり一気に厚くなりました。
パズルのピースとピースが繋がったというより、合体ロボ完成に近い、一つひとつのチカラが倍以上になった感覚でした。
序盤こそ誹謗中傷を繰り返していた人達のプライベート面を描いていましたが、作品としては誹謗中傷の対象となった2人の人生、そしてそこに寄り添っていた瀬尾氏を描いていて社会派作品でありながら、人の人生を丹念に描き上げていることに感動しました。
私の一番の趣味はプロレス観戦です。小学6年生から見始めもうじきファン歴30年。男子だけでなく、女子も観ます。
ネットでの誹謗中傷といえば、2020年に亡くなった女子プロレスラーの木村花さんがあげられます。
彼女の恋愛リアリティショーでの行動から何百何千という心無い言葉が彼女にぶつけられ、自死につながりました。
彼女が亡くなる数日前にTwitterに「手軽、気軽に送れる活字じゃなくて労力、気持ちを遣った人の字を受け取りたいシ、送りたい」と投稿されました。
あの時、なんで彼女の事が大好きだと、応援していると手紙を書かなかったのか何度も後悔しました。
コロナ禍でなければ、試合会場でファンと交流する時間が取れて、ネット上の薄っぺらい連中ではなく本当に彼女を知っている人達が彼女を大好きな想いを感じられたのに。彼女とファンとの仲睦まじいエピソードは山程あります。
天童ショージも露出を減らし、孤立化したことでプラスの言葉を受け取る機会が極端に減った事が悪い方に影響していました。
活動自粛は逆効果で、本当はたくさんファンの前に出してどれだけ多くの人に必要とされているか、愛されているかを直接感じさせる事が何より大切だったんでしょう。
今なお、世界のトップレスラーにまで影響を与えている彼女がどれだけ素晴らしい存在であるかを自分自身に知ってもらう必要があったのでしょう。
遺された母親の木村響子さん、そして花さんがかなり危険な状態であることを気にして常に寄り添っていた仲間の選手、彼女達は何度も何度も自分自身を責めていました。危ういことを知っていたのに何故目を離してしまったのか……。きっと天童の奥さんもそうでしょう。
あれから5年が経ち、未だに誹謗中傷という行為は続いています。
響子さんの活動のおかげで情報開示や裁判に発展することも増えました。
それでも亡くなった人は帰ってこないです。
取り返しのつかない事態になるという事実は変わらないのに、それでも繰り返されます。
私は瀬尾政夫氏を支持します。
【おつかれさまでした!】
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