〈「安くて負担がない」「死亡リスクが44%も減少!」東大医学部出身の総合診療医が、がん検診の中でも「便潜血検査」を最も受けるべきだとオススメする理由〉から続く
年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から、血圧測定の画期的な見方を紹介する部分を一部抜粋する。
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たった1回の血圧測定だけでは判断できない
健康診断の中でも多くの人が「血圧」の数値を気にしていると思います。
高血圧は動脈硬化や心臓疾患、脳卒中、腎臓病など重篤な病気のリスクを高めることが知られています。
しかし、実は血圧についての見解は、医師によってバラバラです。
「しっかりコントロールすることが様々な病気の予防につながる」と考える医師もいれば、「上(収縮期)の血圧の数値が『年齢+90以内』に収まっていれば問題ない」と考える医師もいる。
これでは「一体、何を信じればいいのか分からない」と悩む人も多いはずです。
一応、日本高血圧学会が発表している「高血圧管理・治療ガイドライン」では「診察時の血圧が140/90(mmHg)以上、家庭での血圧が135/85以上であれば高血圧である」と定めています。
ただ、これは私の見解ですが、患者さんを診察するたびに思うのは、血圧は決して「高い」「低い」だけで判断すべきではないということです。
なぜなら、血圧とは、心臓の状態や動脈硬化の進行度合い、その他にも自律神経、ホルモン、体内の水分バランスなど数多くの要素が複雑に絡みあった結果、現在の数値として表れているものなので、たった1回の測定だけで判断するのは難しいからです。
そこで、血圧を調べる時にお勧めしたいのは、以下の「3つの視点」を取り入れることです。
【1】「血圧」と「脈拍」を組み合わせる
【2】「上の血圧」と「下の血圧」の差を見る
【3】血圧の変動パターンを見る
それぞれ詳しく説明していきましょう。
転職した途端にストンと血圧が下がった
【1】「血圧」と「脈拍」を組み合わせる
脈拍とは、心臓が1分間に何回拍動しているかを示す数値です。安静時の脈拍は通常60~80回/分程度ですが、年齢や体調によって異なりますし、個人差もあります。
ただ、血圧と脈拍を組み合わせることで、あなたの血液循環の状態を、かなり詳しく把握することができるのです。
例えば、以下の3つの状況が考えられます。
・血圧が「高く」脈拍も「速い」
運動直後や、軽度の脱水症状に陥っている時などは、当然このような状態になります。ただ、実は、常日頃から循環器に過度な「緊張」や「ストレス」などの負荷がかかっている可能性もあります。
例えば、「仕事や人間関係で強いプレッシャーを感じている」「睡眠不足や過労が続いている」「カフェインを過剰に摂取している」「精神的な不安や緊張状態が続いている」など。これらの状況では、人は「交感神経」が活性化して興奮状態になるので、血圧が高くなり、脈拍も速くなるのです。
私の患者さんの中にも血圧が高く、脈拍も速い方がいて、降圧薬を服用していました。休日は血圧が安定しているのですが、平日は血圧が高くなる傾向にあり、脈拍もやや速めで推移していました。色々と話を聞いてみると、どうやら仕事のストレスを多く抱えており、睡眠不足になりがちで、休日に寝だめを繰り返していたようです。
その後、転職されたそうですが、それを機に、まるで嘘のように血圧がストンと下がって、降圧薬もほとんど服用する必要がなくなりました。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症を患っているなど、もちろん病気が原因になっていることもありますが、この患者さんのように精神的な理由から血圧が高く、脈拍も速くなっているケースがあるのです。
血液量が低下している最も危険な状態
・血圧が「高く」脈拍が「正常」
このような状態の時は、「動脈硬化が進行している」、あるいは「塩分を多く摂っている」などのケースが考えられます。
誤解を恐れず、ごく簡単に説明すると、血圧は「全身に血液が行き届いているかどうか」で変化し、脈拍は「交感神経が活性化しているかどうか」で変化します。
動脈硬化が進むと、血管が硬くなり弾力性を失うので、心臓は全身に血液を送り出すためにより強い力が必要になります。それによって血圧は高くなりますが、血管が硬くなろうとも、交感神経が活性化されるわけではないので、脈拍は正常なままです。
塩分を摂りすぎた時も、血中の塩分濃度を下げるために循環する血液量が増え、血圧が高くなります。これも体内の水分量が増え、全身に血液を届けるのが大変になる分、血圧が上昇するのです。しかし、交感神経を活性化することにはならないので、脈拍は正常なままです。
・血圧が「低く」脈拍が「速い」
体内を循環する血液量が低下していて、これが最も危険な状態です。
例えば、出血や脱水症状などで体内の血液量が減ると、血圧は下がります。すると、交感神経が活性化され、血圧を上げようと様々な臓器に働きかけます。心臓に対しても「早急に体の隅々まで血液を送れ」と指令を出すので、心臓は1回に送り出す血液量を増やすために、拍動の回数も増やして、必要な血液量を確保しようとします。これによって脈拍も速くなります。
失神やめまい、ショック状態に陥るリスクも
それと同時に、交感神経は、全身の血管、特に手足の末端にある細い血管に対しても「収縮せよ」と指令を出します。血管がキュッと細くなれば、その中を通る血液の圧力は上がります。ホースを指でつまむと、水の勢いが強くなるようなものです。
出血や脱水症状は体内で非常事態宣言が出たようなもので、下がってしまった血圧を正常に戻そうと、全身の血管や神経が必死に奮闘するのです。
しかし、それでも十分に作用しない場合は、血圧は低いままで、脈拍だけが速くなることになります。これはかなり危険な状態です。手足を触ってみると、乾燥して冷たくなっているはずです。放置すると、失神やめまいなどの症状が現れ、ショック状態に陥るリスクもあるため、すぐに病院を受診しましょう。
このように血圧と脈拍を組み合わせることで、自分の血管がどのような状態にあるのか、水分不足なのか、動脈硬化が進んでいるのか、あるいは精神的な原因で血管に負荷がかかっているのかなど、かなり具体的なことが把握できるのです。
※『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文藝春秋)では、「3つの視点」の残りの「【2】「上の血圧」と「下の血圧」の差を見る」「【3】血圧の変動パターンを見る」についても詳しく解説しています。
伊藤大介(いとう・だいすけ)
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。







