世界を動かす「もう一つの戦争」
皆さんは「スパイ」という言葉にどんなイメージを持つだろうか。秘密を盗むためには手段を選ばぬ、陰湿な職業だと思うだろうか。いや、特高警察のように国民を監視する恐ろしい集団を連想するかもしれない。
これはとんでもない誤解だ。世界で活躍するスパイは明晰な頭脳と強靭な精神力を持つ、選び抜かれたエリート公務員である。彼らが勤務するのが「情報機関」だ。それは国益追求に必要な情報を集める「耳」であり、その情報を政策に生かす「頭脳」である。
日本はこの重要な機能が存在しない稀有な国である。本書は「日本は情報機関を持たねばならぬ」と、その必要性を強く訴える。著者の吉野準(元警視総監)は警察官僚人生の大半を警備公安畑で過ごした。吉野が駆け出し時代に在籍した外事一課は主にロシアスパイの諜報(スパイ)活動を暴く防諜部門であり、その後歩んだ警察庁外事課長、警備局長は防諜活動の総元締めだ。つまり吉野は各国の諜報活動から日本を守る側にいた。
警備公安警察に身を置いた者は、職務で知りえた事実をすべて墓場に持っていくのが不文律だ。だが、日本に重大な機能が欠落したままであることへの焦燥が、老オフィサーを執筆に駆り立てたのだろう。
吉野は本書の中で「諜報戦」という熾烈な戦いの現実を読者に叩きつける。明らかにされる新事実は自身の捜査経験に基づくものばかりで圧巻である。
接近してきたKGB機関員との駆け引き、尾行から逃れるテクニック、「パンドラ」という暗号で呼ばれた対北朝鮮作戦……。
数々の新事実を明らかにしながら、吉野は世界には日本人の知らぬもう一つの戦いが存在すること、それが裏で世界を動かしていることを知らしめようとしている。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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