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【西加奈子×光浦靖子】大人の悪口スキルを高める(後編)

【西加奈子×光浦靖子】大人の悪口スキルを高める(後編)

「別冊文藝春秋」編集部


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

光浦 仏がおのずと現れました、っていう(笑)。メルヘンのおかしいおばあさんと一緒。人形がしゃべるの。小説でも登場人物がみんなおのずとしゃべるんでしょう?

西加奈子(にし・かなこ)

西 うん。物語が要求する結末とかいろいろある。うちは小説よりも前に、絵をちっちゃい頃からやってて、例えば表現に関して言うと、メチャクチャ不気味なものを書きたいと思っても、文章では「女が生肉食ってる」だけじゃ駄目で。細い女の人が血の滴るお肉を一生懸命食べてる描写を言葉を尽くして書いてやっとほの暗さが伝わる。絵やったら、不気味なの描きたいと思ったら赤と紫と黒混ぜたら「うわー、不気味!」みたいになる。思い描く通りに色を塗れるのが気持ち良くてしゃあないねん。この色ちゃうなと思って混ぜたりするのもすぐできてほんと楽しい。小説はまどろっこしすぎて、そのまどろっこしさが大好きなんやけど。絵ばっかりやってると、考えたくなっちゃって、小説も書きたくなるし、どっちもほしい。どっちかだけやったらあかん気がする。

光浦 ああ、いいねいいね。ベストだ。

西 でも、刺繍はうちできへんな。刺繍はすごいなと思う。ほんで、作るの早いしな。

光浦 でも、世間からしたら遅いみたい。

西 あ、そう?

光浦 ロケで三十分で仕上げましょうって場合だと、やったことない人たちのほうが全然早くて。私、エンジンかかるまでが長い。スロースターター。

西 向こうがしゃべりだすまでな。職業になったら違うかな。

光浦 職業になった途端に怖くて何も作れなくなると思う。エッ、て。まだちょっと無責任なポジションでやらせてもらっとるもんで。ぶっちゃけこれでもまだ黒なんか全然出てないもん。私は素人の中でも針の刺しが少ないほう。

西 うそー!

光浦 素人でもセミプロみたいに販売してる人たちは、みんなもっとテロッテロになるまでやるの。そういう人たちは時間が結構あるんだろうけど。私は早く答えが見たいんで、すごい雑。

西 雑?

光浦 みんなもっと細かい。

西 考えられへん……。

とにかく縫うのが楽しくてしょうがなくて

光浦 でも、下手をカバーするのはどれだけ気が狂ってるかの度合いなもんで、それは時間と細かさじゃん。本当はもっとやり尽くしたほうがいいんだけど。

西 でも、気狂い度だけじゃなくて、やっぱりかわいさも欲しいやん。かわいいもんなぁ、これ。すごい高い値で売れると思うけどね。

光浦 売ったら責任が出てくる。だからそれはおばあちゃんになってからか、あと十年後か分からんけど、南の島に住んだ時にお土産屋さんやってというのも、一つの夢なもんで。

西 ああ、いいなそれ。大きいの作りたいとかない?

光浦 大きいのヤダ。飽きちゃう、飽きちゃう。

西 ああ、そうなんや。このサイズがいいんだ。

光浦 そうそう。これはまた結果が早いもんで。チョンチョンチョンチョンってやっていくと、何となくもうシルエットが見えてくるもんで。

西 大きい作品も見たいけどな。それは飽きちゃうんやな。

光浦 メッチャでかいのは数学的なものだで。

西 あ、そうなんや。

光浦 だって、骨格とかも、発泡スチロールやワイヤーで軸作ってやってとか、無理無理。

西 キルトとかそういうのは全然ちゃう?

光浦 キルトも数学的だな。型紙きっちり取って。私、洋服も作れない。

西 あ、そう?

光浦 ミシンがまず嫌い。ミシンが言うこと聞いてくれないもん。絶対、糸絡むし。

西 すごくアナログなんやな。手で。

光浦 そう、アナログ、アナログ。あと、直線が引けないの。テーブルをまず掃除しろから始まるのが嫌なの。うちには物がない一メートルがないもんで。

西 今ここでできるやつや。

光浦 そうそう。数字がないものが好き。何グラムとか何センチとか。イーッてなっちゃう。

西 でも、メッチャちゃんとできてるよな。絵画的に見る脳がおありなんや、きっと。出来上がりが見えないと、かたちがちゃんとしないじゃない?

光浦 ねえ。

西 だから、ほんと芸術的な脳があるのやろなぁ。

光浦 あったね。こんな年くってから急に。

西 急にあったん? 急に刺繍やったん?

光浦 手芸はずっとやっとったけど、フェルトの人形ばっかり。

西 フェルトはなんでやろうと思ったの?

光浦 小学校の時に授業でやってから楽しくて、マスコットばっかりアホみたいに作ってるもんで。何が楽しいかも分かんないぐらいとにかく縫うのが楽しくてしょうがなくて。何だろうね。

西 へえー! すごい素敵やな。

光浦 手芸は楽しいよ。そして、それ以上の深さもないんだよ。

西 ああ、なるほど。

光浦 その向こうの世界があるわけでもない。ただ一瞬忘れるだけっていう。

西 誰も傷つけへんしな。表現っていう気持ちでもないんや。

光浦 ないないない。そんなに奥の深いもんじゃないもんで、やり続ければの壁はない。

西 そのはにかみもええなぁ! だからこの作品がかわいいんやろうな、ドヤ感が全然ないもんな。

光浦 気負ってないんだよね。

西 だから、ほんま木の実をずっと分けてんのやな。

光浦 そうそうそう。そのレベルなんだよ。そのレベルでいいんだよ。

(二〇一五年七月九日 文藝春秋にて)

ヘアメイク:島貫香菜子(MARVEE)/撮影・志水隆

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