- 2014.08.01
- 書評
ムスリムの学者が解明したイエスの実像
全米ベストセラーに躍り出た衝撃の書!
文:白須 英子 (翻訳家)
『イエス・キリストは実在したのか?』 (レザー・アスラン 著/白須英子 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
本書の原題は Zealot、副題は、The Life and Times of Jesus of Nazareth(ナザレのイエスの生涯とその時代)である。大文字で始まる Zealot(s)は、イエスの死後、三〇年以上あとに起こった紀元六六年の「第一次ユダヤ戦争」で、ローマ人によるパレスチナ占領と、彼らと手を結ぶユダヤ人支配階級に対して蜂起した「熱心党員」と呼ばれるユダヤ人反徒たちを指すが、本書の表題が意味するところは少し違う。
元々の小文字で始まる zealot は「熱心にあることのために力を尽くす人」という意味で、その語根に当たる zeal(熱情)という言葉は、ヘブライ語では「キナー(qin'ah)」と言い、宗教的または倫理的な情念を表す言葉として、旧約聖書の「出エジプト記」「民数記」「申命記」などにも数十回出てくるほど長い歴史がある。
著者のアスランは、本書の冒頭に、「マタイによる福音書」一〇章三四節にあるイエスの言葉「わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ」の言葉を掲げている。
本書は、実際のイエスは平和と愛を説いた救世主(Christ)ではなく、ローマ帝国とそれに結託したユダヤ教の聖職者たちによる武力と重税の支配を打破し、本当のユダヤ人のための「神の国」を作るためには、剣(暴力)をとることも辞さなかった革命家(zealot)だったことを明らかにした本だ。
信仰の対象としてのイエスではなく、実際のイエスを文献学と歴史的考察のもとに浮き彫りにしようとした本書は、アメリカで発売されるや、大反響を呼んだ。
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