―― 一方、もう一つのテーマは「宇宙」です。こちらは検察の重厚な雰囲気と一転、自ら設計したロケットを飛ばすことを夢見て宇宙航空研究センター(宇宙セン)で勉強する若き女性研究者・八反田遙が主人公です。
特捜部はある意味国家権力の塊のようなところで、そこで日本の国益が損なわれるという話が進んでいくと、どうしてもトーンが重くなります。一方、夢を実現したくて、研究職に入ってきたヒロインを宇宙パートに持ってくることですごくコントラストがつきました。今まで私はいろんな対立構造を持った主人公たちを描いてきましたが、ここまではっきりと「明度」が違う二人を主人公にしたのは初めてです。遙パートになると少しほっとするというか、メリハリを効かすことができたかなと思います。私自身も明るく元気な遙のパートを書くのは楽しかった(笑)。
――最初の構想では、遙が研究するのはロケットではなく、航空機だったそうですね。
そうです。当時はMRJ(三菱リージョナルジェット)の開発がスタートして、自動車王国の日本が満を持して航空機産業に打って出る、というようなニュースが盛り上っていた時期で、これは面白いと思ったんです。ところが、取材をすすめるうちに「もっと小説にぴったりの分野がある」と教えてもらったんです。
――それが宇宙開発だった。
ええ。ただ、私は最初、日本の宇宙開発について否定的でした。ニュースで宇宙飛行士が宇宙に行くのを見るたびに、「宇宙にいくこと」だけが目的化しているように思い、予算の無駄遣いではないかと思っていたんです。でも、関係者に具体的に話を聞いていくと、確かにこれは、今の日本で数少ない「成長産業」になる可能性を秘めていると思うようになりました。
――遙は「固体燃料ロケット」を作りたいと語ります。そもそも「固体燃料ロケット」とは何でしょうか。
これは小説の中でも重要な背景なんですが、日本のロケット開発には大雑把に言って、二つの系統があるんです。一つは「液体燃料ロケット」。11月に小惑星探査機「はやぶさ2」を宇宙に打ち上げるのもH2Aという液体燃料ロケットです。そしてもう一つが、遙が研究する固体燃料ロケット。固体燃料ロケットは戦後、糸川英夫という研究者が中心になって、日本独自の研究開発を続けてきました。
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