――締切ぎりぎりまで、飛鳥に再度の取材ができるようにこだわったり、記事を書く上での悩みや書き上げたあとの寂寥とした感覚まで、包み隠さず明かされていますね。
「私は今回、実際に週刊誌の現場というのがどういうふうに動いていて、どう取材や記事作成が行われているか、ありのままを読者に知ってほしかったんです。週刊誌というのは正義の味方ではないですから、必ずしも爽快な結末ばかりではありません。世の中の人が知りたいだろうと思う情報について徹底的に取材して書くわけですが、当然、書かれたくない人もいる。私の書いた記事で不快になったり、不幸になったりする人もきっといたでしょう。それでも書く以上は、きちんとした記事にしたい。そのためには出来る限りのことをしなくてはと思うんですね。だから当事者の生の声を聞くことにはこだわりますし、殺人事件の目撃者を探して朝から晩まで聞き込みを続けたり、インタビューをとるために一日中路上で立って待っていたりもします」
――苦労して記事にしても、それで終わりではないですね。
「ええ。『シャブ&飛鳥』のときは相手事務所が公式サイトで全面否定したため、編集部には連日彼のファンから抗議電話が殺到しました。第3章で書いた『NHK紅白プロデューサー巨額横領事件』のときには、NHKという巨大組織が総力を挙げて反撃してきました。こちらの取材に応じた関係者を徹底的に調べて、証言を覆させようとしてきたんです。取材した相手が悲痛な声で電話をかけてきて、証言をしなかったと言ってくれと言う。その声の背後にNHKの職員らしき人物の気配がしていました。この取材では、私も緊張した場面が多くありました。しかし結局、NHKは問題のプロデューサーを懲戒免職、刑事告発せざるを得なくなり、怒った視聴者による受信料不払いの増加から、当時のNHK会長の辞任にまで事態は進展しました。
私が週刊文春で記者を始めた頃は、『週刊誌はどうせ嘘ばかり書いている。信用できないハイエナだ』『適当な噂話や悪口を書いて飯を食ってるんだろ。恥ずかしいと思わないのか!』と面罵されるのが挨拶代わりでした。実際には本書で書いたように、一行の情報を確信をもって書くために膨大な手間暇をかけているし、裏付け取材を重ねてもいるのですが、記者クラブに参加している新聞やテレビの記者が優遇され、排除されるのは当たり前でした。当時を思うと、いまは隔世の感があります。逆境のなか世間にスクープという一石を投じ、それが事実だと証明される。そうやって信用を積み重ねてきたことが、今の週刊文春の快進撃につながっているように思っています」
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