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担当編集女子が語る、ほっこり製作ウラ話

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「本の話」編集部

『中野のお父さん』 (北村薫 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

H お父さんと美希の会話は、北村さんと娘さんの会話もこんな感じなのかな、と想像してしまいます。機械の操作に疎いお父さんが、パソコンのセキュリティの更新をするために美希を実家に呼ぶ、という場面がありましたが、北村先生も実際、携帯へのメールアドレス登録を娘さんに頼んでますよね(笑)。

Y ……というように、リアリティあるディテールに話題が及ぶことが多いんですが、北村先生は「描写の細部にはそういう面白い事実や人物を取り入れてるけど、肝心のミステリー部分、事件の内容はすべて僕のオリジナルということを強く言いたい!そこを忘れないでね」とおっしゃいます。

K そこはもちろんですね。例えば第一話めでは、新人賞の応募原稿で素晴しい作品の担当になった美希が、本人に電話をすると「応募していませんよ」と言われる、というところから謎が始まる。

Y タイトルと内容は一昨年応募して落選したものと同じだが、今年は何も応募していない、と言われてしまう。どういうことなんだ?このままでは受賞作なしになってしまう!と焦る美希は、中野の実家に帰る。中野のお父さんは、娘の話を聞いただけで、「それは、こういうことなんだよ」とたちまち解答を導き出して――。

H 話を俯瞰し、人生経験と豊富な教養によって、コタツにあたりながら鮮やかに謎を解いてしまうお父さんは、これまでの北村先生の作品の中でも一番探偵らしいキャラクターかもしれません。安楽椅子探偵ならぬ「コタツ探偵」と命名したい(笑)。

K 「動かざること山の如し」ですね。登山の小説を書かれるときも、「コタツ登山」とおっしゃってました(笑)。
『中野のお父さん』では、近年ブームのマラソン大会、宝くじ、雑誌の定期購読者の手紙といった身近な話題のなかで、普通の人は見逃すような謎を見出し、それを組み合わせて、読者をふっと引き込んでくれます。先生の中でずっとあたためていらしたアイデアを今回、軽やかに物語におとしこめたんじゃないかなと思いますね。

R 暴力や犯罪という刺激的な事柄がなくて、誰の身の回りでも遭遇しそうな出来事なのに、とても興味をそそられる。文章のほがらかな味わいと、小説としての完成度の高さ、本格ミステリのファンもそうでない人も満足させてくれる「日常の謎」が素晴しい。「空飛ぶ馬」シリーズのファンの読者にとっては、久しぶりに堪能できる北村作品の原点ともいえるミステリーです。

H 最後に一言だけ言わせてください! 『中野のお父さん』は決して、人間の醜い、嫌なところから目をそらしていないんです。それがきちんと存在しているのに、父と娘、会社の同僚の会話から感じられるのは、お互いがそこを汲んで、優しくし合っているということ。きれいなものこそを書こうと思っていらっしゃるんでしょうね。だから、読後にはほっこりと暖かさが残る。

K 本好きが喜ぶいろんなエピソード、宝箱みたいな知識をふんだんに使いつつ、誰でも楽しんで読める。殺伐とした世の中で、プレゼントにしたいような本です! ぜひとも続編をお願いしたいところですが、「皆さんのネタ出しにかかっている」と言われてしまいましたので(笑)、北村ファンとして引き続きがんばります。

文春文庫
中野のお父さん
北村薫

定価:715円(税込)発売日:2018年09月04日

単行本
中野のお父さんは謎を解くか
北村薫

定価:1,705円(税込)発売日:2019年03月22日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

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    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
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