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男の友情は人生半ばから<br />葉室 麟×中村雅俊

男の友情は人生半ばから
葉室 麟×中村雅俊

「本の話」編集部

『銀漢の賦』 (葉室麟 著)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

中年の友情と青春

『銀漢の賦』 (葉室麟 著)

中村 「風の峠」をやらせていただくにあたって原作の『銀漢の賦』を拝読したんですけど、これは中年の青春ドラマだなと思ったんです。源五と将監、十蔵の男3人の友情の話じゃないですか。39年前にやった「俺たちの旅」っていうドラマを思い出しました。これも男3人の友情がテーマですが、俺が演じたカースケという役と今回の源五役がすごく重なってきて。青春は若者の特権と思いがちですけど、人生の折り返しを過ぎてからも青春はあるんだと感じさせてくれる作品でした。早く撮影したいなとうずうずしてしまって。

葉室 僕は、映像作品は小説とは別物だと思っているので、おおもとの話さえ変わらなければどう脚色していただいてもいいと思っているんです。ただ今回ドラマ化のお話があったとき、原作が入り組んだ構造なので、脚色は結構骨の折れる作業になるんじゃないかなと心配していました。

中村 現在の話と昔の話が行ったりきたりして、やや複雑な作りかもしれないですね。

葉室 ところが脚本を読んだらまったくの杞憂でした。原作のややこしいところをうまく躱(かわ)しながら、すごく魅力的に脚色していただいていて。自分で言うのも変ですが、本当に面白かった(笑)。才能ある方々によって映像化され、原作も面白いと錯覚してくれる人がいたらいいなと思っています。それで本が売れてくれたらなお嬉しいなと(笑)。

中村 ハハハハ。中年を過ぎた方には、たまらない物語だと思います。ところで、この小説はどういう風にして生まれたんでしょう?

葉室 『銀漢の賦』を書いたのは、50歳を過ぎてからでした。そのときに、やっぱり友情を書きたくなったんです。小説の中で、源五と将監が温泉に行くシーンがありますが、これは実体験です。僕が社会人になって非常に辛い時期があったときに、友だちが温泉に行こうと声をかけてくれて。といっても200円払って入るような小さな温泉なんですけど。それで2人で山を見ながらぼーっとして。彼は僕が大変な時期にあることをわかっているんですけど、慰めたりはしないんです。何てことのない世間話をして帰ってくる。ただそれだけのことが、僕にとっては本当にありがたかった。これが貴重な経験になっていて、そのときの思いを小説にしました。彼とは今も付き合いがありますが、この話を方々でしていたら、「源五は俺だ」と言い出して困ったものだなと(笑)。

中村 いやあ、すごくいい話じゃないですか(笑)。葉室さんとその友だちの関係は、話した内容でなくて一緒に過ごした時間で育まれているのでしょう。「俺たちの旅」で共演した田中健ちゃんと秋野太作さんと会うと、39年前のドラマを撮っていたときの気持ちに一瞬で戻ってしまいます。青春時代の友情っていうのは不思議ですよ。

葉室 この物語は僕の夢でもあるんです。昔大事にしていた友人でも、いまは疎遠になっている奴がたくさんいる。彼らとまた会えたらいいなと。もちろん、学生時代からの友人もいますが、たまに会っても真面目な話は一つもしません。バカ話ばっかり(笑)。それはそれで楽しいのですが。

中村 若いときって本当にくだらないことばかりしていませんでしたか。酒はどっちが飲めるのか、立ちションはどっちが遠くまで飛ばせるかとか(笑)。大人になることは、どれだけ無駄を省いて合理的に生きられるかを問われることだけど、ふと青春時代を振り返って思い出すのは、友人とバカをやっている場面ばかりです。そつなく過ごした時間は、実は全然覚えていない。

葉室 恥ずかしい思いをしたな、とか悲しかったなとか失敗したときの感情の方がかえって生き生きしてます。生きていくことは、そういう感情を一つ一つ積み重ねていくことなんじゃないかと。だから上手くいかなかったことの方が懐かしく思い出されるのでしょう。

中村 成功ばかりでは味気なさそうです。失敗があるからこそ成功の喜びを味わえる。順調に行かない人生は、実は宝物なんだと思います。

【次ページ】敗者への温かい眼差し

銀漢の賦
葉室麟・著

定価:本体560円+税 発売日:2010年02月10日

詳しい内容はこちら

オール讀物 2015年2月号

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