――そうした渡辺さんの来し方に共感した読者は多いと思います。
お袋からは、「歳取り損ない」とか、あるいは「夢の久作」とよく言われました。「夢野久作」という作家がいますが、この名は彼自身が発明したのではなく、庶民世界に「夢の久作どん」という言い方があったんです。実在した人物ではないだろうけど、「夢みたいなことばかり言っている人間」のことをそう呼んでいた。それでお袋から「また、夢の久作どんのことば言うて!」としょっちゅう叱られたんです。
しかし、そういう「夢の久作どん」でも何とか生きてこられたというのが、おそらくこの本の取り柄なんでしょう。「社会的に認知してもらえる自分にならなければ」などと思ったら、生きていくのが大変です。「認知されないでもいいのよ」というエールに「なるほど」と思ってくれる読者がいてくれたらいいですね。本を読んでくれたある読者は、「肩の力が抜けました」と言ってくれました。
――発売1週間で重版がかかりました。このことをご自身はどう思われますか?
こっちが聞きたいよ。「こんな本がどうして売れるんでしょうか?」と。
僕としては自然体でしゃべったことがこの本になりました。しかし、いい気になって、自分のことをしゃべりすぎたのが、どうも後味が悪い。僕は警戒心は発達しているのに、編集者がその警戒心をとかせたわけです。だから脇が甘くなって、ついくだらないことをしゃべってしまった(笑)。
しかし、自分のでたらめ人生を飾らずに話せたのが、結果としては、読者には面白かったのかもしれません。
僕自身としては、この本で新しいことを何ひとつ展開したつもりはありません。役者として舞台に立って「芸」を見せたわけではない。いわば「楽屋話」です。しかし、そこに読者は親近感をもたれたのかもしれませんね。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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