書評

史上稀にみるバカキャラが続出! 暴走するアメリカから目が離せない

文: 町山 智浩

『トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016』 (町山智浩 著)

 PAC(政治活動委員会)とは、政治家を勝手に応援する後援会で、2010年の最高裁判決でPACに対する献金額の上限がなくなったので、大富豪や企業の出資による数十億円規模のスーパーPACが乱立した。2014年の共和党予備選ではスーパーPACが敵対する候補を中傷するCMを大量に流しまくった。いくら下品で卑劣なCMが流れても、候補者は「私は知らない。スーパーPACが勝手にやったことだ」と言い逃れた。今回のテッド・クルーズの言い訳もそういうことだ。

 すると思わぬ所からクルーズに「豆がこぼされた」。アメリカ最大のタブロイド紙「ナショナル・インクワイラー」が、テッド・クルーズの浮気相手5人の写真を載せたのだ。顔にはモザイクが入り、名前は伏せられているが「クルーズの元選挙スタッフ」「ワシントンDCの弁護士」「テキサスの学校教師」「高級コールガール」などと細かく説明が入っている。クルーズはキリスト教福音派で、モラル保守が売り物なので大スキャンダルだ。ネットではたちまち身元特定が始まり、すぐに一人目が判明した。トランプの広報担当のカトリーナ・ピアソンだった。

 ピアソンはアフリカ系の美人だが、トランプ以上の暴言大将として悪名高い。ライフルの銃弾を並べたネックレスをしてテレビに出演して、銃を持つ権利を守れと主張した。「次は人工中絶に反対するため、胎児のネックレスをします」

 ピアソンはテレビ番組で「クルーズのゴシップをリークしたのは我々ではありません。私は彼とは寝ていません」と噂を否定し、「クルーズ夫人に豆をこぼすのは簡単です」と反撃を始めた。「彼女は父ブッシュの下でNAFTA(北米自由貿易協定)に参加していました。NAFTAのせいでアメリカの仕事はカナダやメキシコに奪われました。また、ゴールドマンサックスの取締役です」トランプはクルーズとゴールドマンサックスの癒着を攻撃し続けている。

 さらにトランプは、クルーズ夫人が鬼瓦のような顔で目をむいている写真とトランプ夫人のセクシーな写真を並べた写真をツイートした。「どっちがいいか一目瞭然」と書かれていた。下劣さの底は一向に見えてこない。

 タブロイドと政治ニュースの見分けがつかない、そんなアメリカにようこそ!

(「まえがき」より)

町山智浩

町山智浩

1962年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。編集者として雑誌『映画秘宝』を創刊した後に渡米。コラムニスト、映画評論家として多数の連載を持つ。WOWOWオンライン「町山智浩の映画塾!」TBSラジオ「たまむすび」にレギュラー出演。主な著書に『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』『教科書に載ってないUSA語録』(文春文庫)、『知ってても偉くないUSA語録』(文藝春秋)、『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(マガジンハウス)などがある。

トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016
町山智浩・著

定価:本体1,000円+税 発売日:2016年05月25日

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