
結婚するまで性交渉をさせない「絶対禁欲教育」に年間8億ドルもの税金を投入し、コンドームを装着しても31%が避妊に失敗すると教える。ブッシュ大統領の写真を子供たちに見せて、「彼は神の教えに従い、ゲイや中絶や異教徒と戦う聖人です。拝みなさい!」と強要する牧師。テロリストとして逮捕された者を、調査のためとして海外に移送して民間企業に拷問を委託するレンディションというシステム。
町山智浩の『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』に綴られた、俄(にわか)に信じ難いエピソードの一例だ。映画、サブカルチャーにおける先鋭的な企画・編集者として、1997年に渡米してからは気鋭の映画評論家、コラムニストとして活動する町山の目を通して伝えられるアメリカ像は、実に生々しい。発音が同じだからと、アメリカの次期大統領候補を日本人が応援するなど、美談でもなんでもなく、ただの出来の悪いファンタジーだと思えてくるだろう。
日本の一般メディアは、大統領選は自国の与党総裁選並みに伝えても、生のアメリカの姿を報じることには、あまり積極的ではない。本書にあるようなエピソードを知るには、インターネットで海外紙のサイトをチェックするか、衛星チャンネルをくまなく探しまわる必要がある。いずれにせよ、英語力のハードルは低くないし、そこまでしてアメリカの事情を知っておかなければならない日本人は少数に限られる。出来の悪いファンタジーにウットリしてしまうのも、ある程度は仕方のないことだ。
細かな事情はさておき、特派員電で大枠を理解しておけばよい。それが多くの日本人にとってのアメリカであり、だからこそ手垢(てあか)のついたアメリカ像しか持ち得なくなってしまう。日本人もまた、2割しかアメリカの“場所”をわかっていないと言えるのではないか。
ITやインターネットの世界に身を置いていると、アメリカは非常に身近な国だ。頻出する言葉のほとんどが、アルファベットの頭文字を用いた略語やカタカナ英語だし、革新的なサービスやアイデアは、たいていアメリカからやってくる。無邪気にカタカナ英語を操る起業家、ネットに軸足をおく金融関係者に訊ねれば、アメリカは自由で、公平で、誠実で、正しいことに報いようとする国だと聞かされるに違いない。
ビジネスの現場へ行けば、「マケインは親日家だが、民主党は伝統的に対日強硬派だから、日本経済の浮上を考えるとオバマはどうかな」などという論評に出会う。
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『日暮れのあと』小池真理子・著
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